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第65話 新月のスラデレラ -2-
さて、時はすでに丑三つ時だ……あおーん。
そして俺達はエドの寝室で深夜のスライムトークをかましていた。ちなみにエドは既に寝ている。
とりあず、スノウとクロテンに今までの経緯を簡単に聞いたところ、「木の洞で途方に暮れていたら捕まった」との事だ。あ……軽く既視感が……。
まぁ、あの元居た洞窟までそれなりに距離とかありそうだもんな……。戻ったところで仲間からどんな扱いを受けるか……。スノウもクロテンもスライムの中じゃ小型だから、それなりに今まで色々あったと思う。自然界はなかなか大きさが大事だったりするのだ。一種の憧れのステータスなのだよ。
「コポ、コポポポポーコポ? コポ……(ところでお前ら、メシはどうしてるんだよ? ……まさか……)」
「コポ! コポポポコポ、コポコポポ(ああ! それは、あの子が"マジックキャンディ"ってのを朝、三日に一回くれるんでそれ食べてます)」
「コポコポポポー(あ、それのレモン味、俺好きー)」
……何だそれ。虫? 虫ゼリー的な物なのか? しかも"レモン味"!?
「コポ……ポォ? (それにあの子を襲うなんて……なぁ?)」
「コポーコポ? (そうそう、ちょっと……な?)」
「コポ? コポー(何だ? 襲ってねぇのかよ)」
ふーん? 意外に感じるな? でも、こうして暮らしている事を考えるとそう言うもんかな。
「「コポポポコポ! コポ! (お、俺達はあの子を"アレ"の対象にしてないんです! キング!!)」」
「コ……コポ(……お、おう)」
「コポコポ、コポポポ! (だから、キングもあの子の事、襲わないで下さいよ!!)」
「コポポポポコポ! (好きな子が目の前で犯されてるみたいで嫌ですから!!)」
「コーポ! コポ! (わーったよ! そんな表現すんな!!)」
凄い必死だな……。本気を感じる勢いだ。
「コポ、コポポーポ(あ……でも、あの子に求められたら、オッケーなんです)」
「コッポォ~! (めっちゃ奉仕るす所存です!)」
「………………(………………)」
……そ、そんなルールが……。
「コポコポ……(……俺、エドにならコア破壊されても良い……)」
「コポコポポ! (俺だってエドにならコアを素手で握られても良いやい!)」
「コポー? コポポ? (……お前ら入れ込み過ぎじゃねぇ? それって"死んでも良い"って言ってる様なモンだぞ?)」
「「コポ! (エドの為なら死ねる)」」
「!?(!?)」
どうやら二人にとってはエドは相当な魅力の持ち主らしい。
俺は出会ったばかりだから分からないけど、二人にはそこまで行く何かが有ったんだろうなぁ……。さらっと重い告白しやがって……。
「コポーコポポ(……ところで俺はちょっと訳有りで、明日の夜にはこの屋敷……エドの元を去る)」
「「ポ!? (え!?)」」
俺の告白に"ピシリ"と固まった後、オロオロと二人は俺の元に近寄ってきた。表皮がプルプルとざわめいている。
「ポ、ポコポ? (……ねぇ、ねぇ、またキングに会える?)」
「コ~ポォ~(……会える……かもしれんなぁ……)」
「ポッポッ! (またここに遊びに来てよ!)」
「コポ? コポー(う~ん? 来れたらなぁ? 考えとく……)」
その後は何故か二人に挟まれて、用意されている籠のクッションの上で並んで寝た。え? 両手にスライム? 川の字スタイル?
スノウとクロテンに何だか妙に懐かれてるなー、俺。まぁ、悪い気はしないけどな……。
うん、おやすみ。
朝になり、俺はそっとエドの屋敷内を探検する事にした。これは、主に退却時のルート確保の為の探検だ。
ここで去ってもいい気もするが、今は陽の光が有りすぎる。夜の闇に紛れた方が良い気がしたんだ。
しかも今の俺はスライムだし、少なくとも外よりはこの屋敷内は安全そうしな。そう思ったんだ。
そして現在の自由な単独行動につながるわけだ……。
しかし、俺は台所で出会ってしまったのだ……あの魅惑的な……
マーマレードに!!!
素早く匂いの発信源が机の上だと感じ取った俺は、触手を伸ばして一気に机の上に自分を引っ張り上げた。
すると、予想通りあったんだよ! 黄金に輝くジャム瓶が!
俺は躊躇無く、その瓶内から黄金のマーマレードを触手につけて、体内に取り込んだ。
こ、この味は! そして香り! あの瓶と同じマーマレード!!
俺はその芳しい香りに負けて、蓋が開いているのを良い事に瓶に飛び移った。
そしてヌプヌプとジャムの中に何本も触手を伸ばし、表皮からマーマレードを取り込み始めた。
でも、夢中に成り過ぎていつしか出来立てのまだ仄かに温かいジャムの中に身を沈めていたんだ……。あれ? こんなはずじゃぁ……。
「コポ~コポコポ~……(うぅう~マーマレードだらけだ……)」
「……やっぱり"何か"居ましたね……」
「!! (!!)」
声のした方向を見れば、濃い茶色い髪を両脇にお団子にした、赤茶の瞳のツリ猫目なアジア系美少女が俺を見ていた。年齢は分からないが、童顔の感じが幼さを醸し出している。
そして彼女の服装がメイドっぽい事から、何となく彼女がエドの言っていた家政婦さんかと推測した。
コツコツと靴音を規則的に鳴らして彼女は俺に近づいてきて、やや冷たさなイメージがある一重の瞳で俺を見下げた。や、やんのか、こるぁ!
「……最近、ジャム瓶が数個無くなったと思っていたら……ちびスライム、ですか」
……ち、ちびスライム!! がーん! 確かに女性の大人の拳くらいだけどさ! それなら、スノウとクロテンだって一緒だい!!
「こんなにベタベタにして、これでは仕事が増えます」
―……そしてこの後、容赦無く流れの速い冷水でメチャクチャ洗われた。す、水圧が……! ちべたい!
「………………(………………)」
あ、あんなにグリグリと洗われるなんて想像もしていなかった。意外と荒々しく力強い揉み洗いに俺は少々疲れた。グッタリ。
床の水とは違うヒンヤリ感が何だか安心する……。こうして伸びている自分を静かに受けてとめてくれているからか……。包容力抜群だな。惚れそうだ。
「コポ……? (この匂い……?)」
しかし、グッタリ気味な俺に再び、あの甘い誘惑の香りが辺りに漂い始めたのである!
見上げると、小皿を持った例の家政婦さんが俺をじっと見ていた。
俺も無言でただ見返していると、俺の目の前にそれぞれ甘い香りを放つ小皿が最終的に四枚置かれた。
「……食べます?」
「! (!)」
はぁ~アンタって案外良い奴だなぁ?
出てきたのは、「イチゴ」「マーマレード」「ブルーベリー」「イチジク」、のジャムが入った小皿。こんなにくれるの?
家政婦さんの言葉に無言でジャムに飛びついて取り込んでみた。どれも美味い!
……でもさぁ、この中じゃこれだよな、やっぱり。
「コポ! (おかわり!)」
「……マーマレード、相当好きなんですね……」
マーマレードの小皿だけ少し浮かせておねだりしてみた。
俺のそんな動作に少し笑うと、家政婦さんは再びマーマレードを小皿によそってくれた。
そんなマーマレードを堪能し終えて何となく伸びてゆったりしていると、家政婦さんが辺りを見回し始めた。何だろうな?
「ポ? (何?)」
「……誰か……きっと坊ちゃんがここに来ます……もうそんな時間だったのですか……」
「ポ~? (エドが?)」
「坊ちゃんは御両親が居ない時、朝食は自分の好きな所に持って行って食べるんです。だから、それを取りに来たんです」
「コッポ? (へぇ……?)」
噛み合っている様で、実は全く家政婦さんは俺のスライム語を理解していないのだが、妙な上手い会話の流れになっている。
そして、俺にくれていたジャムで多分エドの朝食を作っていたんだろうな……って、あれ? 暗闇??
「う、動かないで! 君もこんな状況、知られてたくないでしょ?」
「コ、コポ(う、うん)」
す、スカートの中に隠された……。しかも俺の上にぺたん座りだ。器用だな。
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