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第72話 "扉"を開いて -1-
「……あれ? ……足りない……」
リンデルは普段薬草を小分けしてストックしている専用の棚をひっくり返しながら、ブツブツと呟き始めた。
俺は今日はリンデルに薬草について教えてもらう為に、彼の店に来ているのだ。ついでに袋詰めとか手伝っている。
「? リンデル、何か足りないのか?」
「……頼まれていた薬草がどうやら足りないようで……どうしよう……納期も近いのに……」
俺の問い掛けにもリンデルは動きを止めないで、アッチコッチと棚を次々と確認している。普段の落ち着いた感じからは少し想像つかないな……。
それにしても、よっぽど必要なのかな……? 後姿から必死さが出ている気がする……そうだ!
「……じゃ、じゃぁさ! 俺に任せて? 薬草、採って来るよ!」
「……え? ……良いんですか? でも、アサヒは今は薬草類の勉強中では……?」
「うん、でもさ……リンデルの手伝いがしたいんだよ。こうして教えてもらってるお礼も兼ねて、薬草採りに行かせて!」
確かに俺は今、リンデルが言った通り彼の店で扱っている薬草を片手に、"薬草"の勉強中だ。
……表向きは、だが。……そう、結局俺は自分の中にある"薬師"のデータ照合を行っているのだ。
だいぶ分かってきたし、薬草採りのリンデルの手伝いも楽しそうだ。
「……そう、かい? ……じゃ、お願いしようかな? ……ありがとう」
「おぅ、任せてくれよ! リンデルー!!」
「それなら、今から地図を描くから、そこに行って薬草を採って来て欲しいんだ」
「うん、分かった! 安心して店番しててくれよな!」
俺の言葉に、リンデルは微笑みながら「うん、待ってるよ」と答えてくれた。
そして俺はリンデルに描いてもらった地図を頼りに意気揚々と目的の場所に出発したのである!
指定された場所は王都から出ないと行けない場所なので、城壁の外に出る高揚感が更に今の俺に加算された。これはテンション上がるな!
城門を行き来する流れに俺も加わって、ルツとはじめて来た以来じゃないかな……? 俺は城門を潜って外の世界に出た。
それにしても、何もしていないんだけど、兵士の脇を通り抜ける時、変に緊張した……。ふー。
そして……
「……はぁ~……」
……何となく、城壁内とは違う空気の流れに思わず声が出た。俺、実は息止めてたのかな?
俺の周りは、のんびりのどかに色んな人々が相変わらずそれぞれのペースで行きかっている。
ああ、何となく口角が上がってくるなぁ……。俺、こういった雰囲気、嫌いじゃないよ?
……んじゃ~俺も自分のペースでいきますかぁ……。
そして俺は王都の高い城壁を背に歩き出した。
……さて、プラプラ歩いていた俺だが、リンデルが欲しがっている薬草は確かこの辺に生えているはずだ。地図でも確認したし、大丈夫だと思う。
カサカサと地図を折り、俺は地図をポケットに仕舞った。
それにしても王都からそんなに離れていないけど、隠れたようにある妙に開けた場所だな……。
そしてこの薬草の生えている場所……ぱっと見、今はバラバラに感じるけど、以前は整っていたのではと感じる分布しているんだよなぁ……。偶然かなぁ?
まぁ、頑張って渡された袋を一杯にしよう!
俺はショルダーから白っぽい麻の布袋を取り出して、リンデル指定の薬草を見つけるべく視線を足元に落として、目ぼしい場所をうろつき始めた。
程なくして俺は目的の薬草を発見した。
「……えっと?」
葉の形や他の特徴を照らし合わせても、これで間違いなさそうだ。
見た目はさ、三又に分かれたキザキザの葉っぱなんだけど、匂いを嗅ぐとほんのり甘い様な……このまま生でも口に含めそうな感じなんだ。勝手な想像だが、味は甘いんじゃないかな?
それに見渡す限りワサワサあるからな。採取は案外楽そうだ。
……まぁ、それじゃ採取して行きますか! 目標は大き目の袋、二つ分!!
「よーし! やるぞー!」
そして一人掛け声で気分を高揚させて、俺は薬草の採取に取り掛かったのだ!!
―……プチ……プチ…………プチ……プチ…………ギュゥゥゥウ~~……
「―……う~ん……これ以上入れたら閉まらないかな?」
俺は薬草を詰めながら適度に体重をかけて、袋の中に薬草を押し込み、口を縛った。
まぁ、こんなもんか? 一応、渡された二つの袋は一杯になったし……。そろそろ帰ろうかな。
そこで俺はその場で立ち上がり、背伸びをした。少し背骨がパキパキと音を鳴らした気がするが、構わず身体を上に伸ばした。
「……ッはぁ~……! ……結構同じ体勢ってのはくるもんだなぁ……」
ついでにずっと曲げていた脚を膝を中心に軽く伸ばし、俺は満足に詰め込んだ薬草の二袋をショルダーに入れて再び肩に斜めに掛けた。
陽はまだあるが、何が起こるか分からないからなるべく早く王都に戻ろうと、俺は彼の方向に視線を向けた。
―……ギャァギャァギャァギャァギャァギャァ……
……何だぁ? 急に集団の鳥の鳴き声? 何だか気味悪いなぁ……。
しかも鳥の集団が飛び出した場所……俺の帰り道じゃねーかよ。
うーん。……あそこ通るの何かヤダなぁ……。でも、道は一本しかないんだよな……。
あー何かありそうで嫌だ……杞憂で終わってくれ……。
でも、まー……しょうがない……俺はここらの土地に詳しくないから、とにかく来た道を帰るしかない。
さて、そうと決まればさっさと帰ろう。帰ろう。
そして俺は来た道を王都に向けて歩き出したのだ。
―……そして、何か起きる時ってのは、何だか予感めいていたり……するんだよな……。たまにさ?
―コッン……!
「ぃって……!」
な、何が頭に降ってきたんだ? 結構硬そうな感じがしたけど……。
俺はとりあえず足元を見回して、何かを確認した。そして、直ぐ近くに光る物を発見したんだ。
近づいて見てみると、それは"指輪"だった。太陽の光の反射で、更に自然な輝きの美しさが増している気がする。
―……これは……指輪? しかも高価そう……。
拾ってまじまじと見てみたらカットが複雑で、匠の熟練された業を素人の俺でも感じる。
メインのエメラルドを中心に、金、銀、他にも凝った細工と宝石を使用した豪華な作りだが、下品には感じられない作りをしている。
……でも何でこんな高価な指輪が上から降ってきたんだ……?
「おい、そこのお前、上だ! 上を見ろ! 待っていたぞ!!」
……はぁ? 上ぇ? しかも、"待っていた?" って?
そして俺は声に言われた通り、上を見た。見て、言葉を失った。
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