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第73話 "扉"を開いて -2-

「……………………」 「そこの水色頭、俺を助ける任を特別に与えてやる……さ、早く助けろ!!」 「………………………………………………」 俺が見上げた先には、突出した不安定な木の枝に引っ掛かっている少年が偉そうに腕組みをしながら俺を見下ろしていたのだ。 年齢はグリンフィートとそう変わらなさそうだけど、態度がやけにデカいな。 「は、早く……た、たす……」 「…………………………………………」 俺が黙って見続けていると、段々と言葉が小さく、自分を支えている突き出ている枝を気にし始めた。 チラチラと視線を枝の根元と、俺とを行き来している。そりゃぁ、両方気に成るよな? そして、"それ"は突然起きた。 ―……ミシリ……ッ……バキィ!! 「わ、わぁぁぁあああぁぁ!? 助け…………て!! 助けて!」 「……っと……!」 俺は落ちてきた少年を易々と……まで軽くは無いが、下で無事にキャッチした。 上からの重みで少し下に持っていかれたが、"重い"とあまり感じなく、むしろ彼は軽めな体重の様だ。そして幾つかの金属がカチカチとぶつかる音が。 そして俺の鼻腔に、特異な匂いが滑り込んできた。 ―…………"人"とは違う"匂い"……。 そう、その匂いの正体は"魔力"。 この少年のキツイ魔力の"甘い"香りで、引き寄せられるどころか、一瞬むせ返りそうになった。 一瞬身を引いたが、目は受け止めた少年から離せずにいた。 少年は衝撃で目を瞑っていたが、彼の身に纏っている装飾品の多さに俺は一瞬にして驚いた。 頭部はもちろん、とっさに俺を掴んだ手にも、そして手から伸びる腕にも、俺が受け止めている胴にもそして投げ出されている脚にも、いたるところに様々な装飾品を着けていたのだ。 しかも俺のスキルがこの装飾品の数々は大体が魔具であり、魔力コントロールに使われている事を一瞬で理解させてきた。 なるほど? ……この装飾品に魔力制御させているのか……それにしても一体何個着けているんだ? 軽く見ても、指輪、腕輪、ピアスに首にも……他にも着けているのを合わせるとかなりの数でしかも複数個だ。これは全部解放された瞬間の事を想像すると、ゾッとするな……。 半分冷静に分析した俺だけど、この魔力の芳香以外にさすがにそろそろ"これ"がきつくなって来た。 「……とりあえず、俺の髪の毛掴むの止めてくれない? ……痛いんだけど?」 「……は!? あ、あ、あぁ……」 落ちた事によりとっさに俺の髪を掴んだと思うんだけど、やっぱこれはこれでなかなか痛いしさ? そろそろ解放して欲しい。 そしてこの落ちてきた少年、近くで見るとなかなか整った顔立ちをしている様だ。 黒髪で、少し涙目の赤黒い瞳に、黒尽くめの魔術師独特のヒラヒラした感じの服……。ちなみに髪の毛はサイドは両方垂らして、後ろでポニーテールをしている。 俺の掌から分かる服装の質はとても上等そうだし、とても良いトコのお坊ちゃんそうな雰囲気を感じる……。 「………………」 「…………何? ……俺の顔に何か付いてる?」 「あ、い、いや……!」 「そ? なら、早く放してくれよ」 やや上目使いで頭上の少年に話しかけると、少し動揺を見せてきた。睨んだつもりは無いけど、そう感じたのかな? 「……さっきの台詞。俺を"待っていた"、ってどう言う事?」 「……あの木の枝から、見たんだ……。こっちに来そうだったから、たすけ……ま、まぁ、待ってたんだ!」 「俺の居た位置から結構な距離……あると思うけど……?」 「こうしてさ、"遠目の魔法"を使ったんだよ」 そう言うと指でリングを作って覗いて見せてきた。そんな魔法あるのか。……便利そうだなぁ。俺の中の誰かが持っていないかな? 彼のそんな仕草を見ていたら、俺はある物を思い出した。 「ああ、そうだ……。この指輪、お前のだろ? ほら、返すよ」 「それは…………結果的に俺の事をちゃんと助けてくれたお礼に、お前にやる。……それと、少し道も教えて欲しい」 「……これを……俺に? ……あ、ありがとう……」 ……はぁ!? こんな高価な物を、俺に!!? 急に? ……あ、怪しい……けどこれは一応貰っておいて、とりあえず先の展開を進めてみよう。 何となく放っとけないんだよなぁ……。あんな木に引っかかって、俺が通らなければどうしていたんだろうなぁ、本当……。 "少し道も教えて欲しい"って事は、目的とする場所が有るって事だよな? 「……で、どこに行こうとしてたんだよ?」 「……フォンドール……」 ……フォンドール。 王都かぁ……まぁ、ここら辺じゃおのずと"王都"になるかもな。王都自体は大きいが他に目ぼしいの近くに殆ど無いし……。 「そっか、俺も王都に戻るところだから、連れて行ってやるよ」 「…………うん……!」 目的の場所が俺の帰り道と同じだから、案内が楽で良いな。 「それで? そこに知り合いとか居るのか?」 「居ない。俺は旅をしているんだ。その途中で……連れとはぐれて……」 今度は質問に対してそっぽを向きながら拗ねた様に俺に答えてきた。 言いながら段々声が小さく……。一応、不安なのかな? 「……ふぅん……? はぐれたんだ? 何で?」 「お、俺は悪くない! ちょ、ちょっと近道をしようとして"扉"の魔法を使っただけだ……! 閉じる前に来てない事を告げないアイツが悪い!」 「……"扉"?」 「こ、古代魔法だから、地形の変化なんかで距離感が難しいんだよ! でも方向は合ってる! 現にこうしてフォンドールの近くの"扉"を開いた!!」 「もう一度その魔法で戻れば……?」 「同じ場所に出るとは限らないんだ……。"近い"かもしれないけど……、万が一の時は俺が目的地で待機する約束をしているんだ。だから、戻らない」 「……なるほど?」 そうかそうか、このお坊ちゃんは迷子なのか。まぁ、迷子になったら、どちらかがあまり変に動かない方が良いのかもな……。 しかもこの迷子のお坊ちゃんは、"魔法使い"なのかな?古代魔法とか言っているし……でも、何それ? ま、とりあえず軽く自己紹介で名前を聞いておくか……。 「……ところで俺は"アサヒ"っての。あんたは?」 「……シュトール」 「んじゃシュトール行こうか」 まぁ、分からない事だらけだけど、そんない深入りする相手でもないだろ。 俺はそう結論付けてフォンドールに帰る事にした。 「なぁ、ところでその"連れ"はシュトールがフォンドールに行こうとしている事は知っているのか?」 「知ってる。だから大丈夫だ」 「なら良いんだけど……」 「それに、連れの鎧に俺専用の捜索機能が付いてるから、そのうち俺のところ絶対に来る。だから基本どこに居ても大丈夫だ」 「そ、そうか……」 ……何それフツーに怖い……かも。言うなれば、必ず追ってこれるのだ。 しかし俺に対して自信と信頼に満ち満ちた瞳で、シュトールは自慢気に見てきた。どうやら良い主従関係をしている様だ。

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