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第74話 "扉"を開いて -3-
―……くぃ……
「……なぁ、アサヒは冒険者なのか? 宿は王都に?」
「そうだけど?」
「なら、……俺もアサヒと同じ宿に部屋をとる……」
「え? あ? そうか……」
「ああ、案内してくれ」
王都に着いたとたん、シュトールがそんな事を言って俺の服を引っ張ってきた。
まぁ、別に断る理由なんて無いから、そんな迷子のシュトールを連れて俺は一旦"小熊の尻尾亭"に戻ったんだけど……。
「期間は分からないから半年位借りようかな? これで足りるか?」
そう豪快に言って、シュトールは子袋から宝石を数個、ヨハンさんの居るカウンターの上に置いたんだ。
その美しい眩さと重量と言ったら……一目で価値がかなりある宝石だと俺でも感じた。
そして当のヨハンさんはと言うと、ポカーンとしていた。え? 大丈夫?
「は、半年、ですか?」
「そうだ。そのうち必要なら部屋数を増やすかもしれないが……。後から従者が俺を訪ねて来るかもしれないんだ」
「……では、お代はこれで……。多いです」
「ん? 半分で良いのか?」
「少しは見れますが、専門ではないので適正か少し自信がありませんが……」
「そうか……。なら、これで。何か突然に迷惑を掛けるかもしれないからな……」
そう言ってシュトールはヨハンさんが言った分に適当に宝石を一つ足して、さっさと契約を済ませてしまった。
渡された鍵を見て、俺と同じフロアの部屋だって事が分かったから、とりあえずシュトールを部屋まで案内した。
そして、俺が利用しているフロアは現在動いている人物は俺だけだ。
説明するが、俺とシュトールが借りた部屋以外に四部屋あるが、それぞれ動いている様でこのフロアの利用者にまだ会った事が無い。つまり、一フロアに六部屋なのだ。
そして宿泊施設の『小熊の尻尾亭』は四階建てが廊下続きで三棟、ちなみに宿泊日数や冒険者か一般かで利用箇所が違い、一部は住み込みの従業員が使用している。ちなみに母屋は別である。
道路に面した正面の一階はフロントと、奥さんのライラさんが切り盛りしている『熊の左手』と言う軽食所がある……まぁ、こんな感じか。
しかし、ここまでこのフロアの他の人物と会わないと……何だか本当に居るんだか居ないんだか……。まぁ、何人かは利用しているんだけど。実際は何部屋埋まっているのかな?
……そうだ。ついでに俺の部屋も教えておくか。
「ここ、俺が借りてる部屋だからさ、何かあった時は気軽に来いよ」
「……そうか、それは助かるな……」
少し偉そうだけど、たまに見せる穏やかな表情はなかなか良いもんだな、シュトール。うんうん。
「じゃ、俺は用事があるから」
俺の言葉に無言で頷いて、シュトールは部屋の中に消えて行った。
シュトールと別れ、俺は何気なくショルダーを撫でた。中には薬草の詰まった麻袋が二つ……。
そして無意識に"急ごう"と思っているのか、足を動かす速度がいつもより速い気がする。
だって早く渡したいもんな! 俺から受け取った後、色々処理する事だってあると思うしさ。
そう考えながら、俺はリンデルの下へ足早に向かった。
「リンデル! じゃーん! 採って来たよー、はい、リンデル!」
「アサヒお帰り、ありがとう……」
俺の帰還を笑顔で迎えてくれたリンデルの目の前で、俺は薬草がパンパンに詰まった袋を揺すった。
結構意識して詰め込んだからそれなりに袋が重い。
そしてその二袋をリンデルに手渡すと、どうやら俺の働きはリンデルの予想を超えていたらしく「こんなに……」と小声で言われた。
とりあえず喜んでもらえて良かった。
俺はそんなリンデルに満足したから、帰ろうと考えを巡らせていたらリンデルが俺に声を掛けてきた。
「……じゃ、この採って来てもらった薬草を使って、今からハーブティーでも淹れようか?」
「え? ……良いのかよ……足りなくなるんじゃ……」
「こんなにあれば大丈夫だよ……二袋ともギュウギュウじゃないか。それにアサヒ、疲れただろ? 飲んで体力を回復していくと良い」
そう俺にリンデルは微笑むと、母屋の方へ引っ込んで行った。
そして程なくして、リンデルの消えた母屋の方から何やら良い芳香が仄かに漂ってきた。
どうやらリンデルが作ってくれている"ハーブティー"の様だ。これは期待できそうだ。
辺りに先程の甘い芳香が充満し始めた頃、リンデルが透明なガラスのポッドとそれのセットであろうグラス、そしてお茶請けにクッキーをお盆に乗せて俺の座っている店奥の机までやって来た。
ポッド内を見てみると、俺が採って来た薬草の他に数種類違う物がミックスされており、中の液体は薄い黄緑色をしていた。
そして俺の目の前でグラスに作りたてのハーブティーを、コポコポと注いでくれた。注ぎ入れられた液体は更に強い芳香を放ってきて……うん、良いね。
目の前に淹れたグラスを出され、俺は砂糖などは使わないから、出されたそのままを口に含んだ。
「柔らかくてほんのり甘い……美味しいな、これ……」
「美味しい? 良かったな、アサヒ」
「うん、ありがとう、リンデル~」
おお~……やはりあの薬草は甘かったのだ。俺の予想は間違っていなかったのだ。うむ。
……ああ~……それにしても、この和やかな空気、最高だな。
リンデルの入れてくれたお茶は美味しいし、色んな意味で癒されてるな、今の俺は……。
そして俺の体力は確り回復したのだった! 素晴らしい!
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