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第75話 "扉"を開いて -4-

そしてその夜、俺の部屋のドアをノックする音が……。 ―……コンコン……コンコン…… 「……アサヒ、居るか?」 ……この声は……シュトール? 軽い戸を叩く音の後に追随した声は、昼間会ったばかりのシュトールで間違いなさそうだ。何かあったのかな? 声に気が付いてから俺はドアの前に来た。何となく人の気配を感じる。 「……どちら様?」 「シュトールだ」 まぁ、一応な流れで俺は相手に名前を求めた。……誰かは分かっているんだけどさ? そして案の定、俺の出した答え通りの相手、"シュトール"が名乗ってきた。 そこで俺はドアを細く開け、今度は目でシュトールである事を確認した。 「……シュトール? 何?」 「…………うん……」 やっぱりシュトールだった。 シュトールだと明らかに分かったので、俺はドアを彼が全身見えるまで開け、俺の部屋に来た用件を聞く事にした。 ドアの隙間が広がる速度でシュトールの全貌が分かってきた。 会った時よりは軽装……むしろ、寝巻き……? まぁ、上にローブっぽいのを羽織っているのだが、下のは寝巻きな気がする。 ―……そして何故、君は枕を持っているのかな? んん? 俺は一瞬、シュトールの姿に内心動揺したが、とりあえず再び用件を問う言葉を短くシュトールに掛けてみた。 シュトールは少し下を向いて、何だか言い辛そうにしているが、話してもらわないとな……。訳が分からない。 「……で、何かな?」 「……ぅん、あの、さ、……そ、添い寝、してくれ。アサヒ……」 「ぅん……? ……俺、疲れてるのかな……シュトール悪いがもう一度言ってくれないか……?」 「~~~よ、良く聴いとけ! ……添い寝、してくれって言った! ……聞こえたか? そいね! だ! 添い寝!」 「……そ、は、ハァ!? 添い寝!!??」 俺とシュトールしか居ない宿の廊下に、最後は俺の声だけが響いた。 「…………んと? 怖い夢でも見た? とか?」 「……違うし、見てない」 現在、俺とシュトールはベッドの上でお互い向き合って座っている……。何だ、この流れは……。 ベッドは俺一人でも広めだし、シュトールの身体付きから見ても別に同じベッドを使用して窮屈は感じないだろう……。うん。 「じゃ、何で……」 「……近くに誰か居ないと寝れない……」 「……それで?」 「…………しばらく、俺と寝所を共にして欲しい……出来れば連れが来るまで……」 「……………………それはいつだよ……」 何でも、信頼できる従者と寝所を共にする事で未然に暗殺とかを防いだりするそうだ……って、どんだけ地位が高いんだこのシュトールは……! 今はその従者くんと離れ離れだから、とりあえず俺を頼ってくれるらしい……。結構いい加減だなァ。 「それに何故か分からないが、アサヒと居ると安心するんだ……」 「……へ、ぇ……?」 そう言いながらシュトールはローブの内側をごそごそとし始めた。ポケットでも有るのかね? そして目的の箇所に当たったのだろう、ローブの下で何かを選ぶような動きをしてるのが布越しに想像出来た。 やがて何か決めたのか、そこから手を引き抜き、ローブの合わせ目から先ほど探るような手付きをしていた方を俺の前に出して、握っていた掌を開いてきた。 その掌の上にコロンと乗っていたのは、涙形をした大粒のサファイアだった。 「礼はこれ……」 俺はそのサファイアを目にし、シュトールの言わんとしている台詞を予測し先回りした。 「あー、あの指輪で良い! あの指輪! 昼間貰ったやつ!」 「それはもうアサヒにあげただろ……。新しく……」 「いーんだよ! 俺より物の価値に無頓着だなぁ、シュトールは!」 「……そ、そうか? 金銭は主に連れに任せてたから……む、難しいな……」 まったく、このお坊ちゃんは……!

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