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第76話 "扉"を開いて -5-

「じゃ、添い寝……良いのかよ?」 「……良いよ……。何だかしょうがないだろ……シュトール、安心して寝ろよ……」 「……ああ! そうする。アサヒ、ありがとう……」 「……いや……うん……うん……」 何だかんだ言ってもシュトールは礼儀正しい方なんだよなー。偉そうな時もあるけど、御礼はちゃんとするしな。 そして例の指輪を口にする事で、俺はシュトールが何で木に引っかかっていたのか同時に思い出した。 「……ところで何であんな木の上に居たんだよ?」 「それは……最初に言ったが、あそこに"扉"開いたんだ……。崖の寸前に開いて、誤って落ちてしまったんだが、運良く木に引っかかってだな……」 「……"扉"……確か、古代魔法、だっけ? 聞いた事ないなぁ……」 聞きながら、シュトールはなかなか"運"が良いのか悪いのか……。 古代魔法……ねぇ? 俺の中の魔法データにも、そんな魔法無い。"古代"魔法だからかな? すでに廃れた感じを受けるが、シュトールの話から考えると"移動"魔法の様だ……。リリサ先生の"次元転移魔法"とは違うのかな? 何だか、リリサ先生のは"縦移動"で、シュトールのは"横移動"に感じるから不思議だ。 「ああ、古代魔法"扉"。ちなみに……古代魔法の"扉"は魔王一族しか使えないから、そうそう耳にしないと思う。アサヒが知らないもの当たり前だ」 「まおういちぞく?」 ―……古代魔法の"扉"は魔王一族しか使えない? ん? 魔王? 「そうだ、魔王一族専門の魔法だ。 この魔法はな、古くは魔界が勇者や人間界とまだ対立関係にあった時から存在しているんだ。もう、勇者や人間界とはそういう血生臭い争いの関係じゃないから、この魔法は軍事運営的につかわれなくなったんだよ。この"扉"は大規模の軍隊を移動させる時なんか便利なんだ……。 まぁ、今は俺の一族がただ単に移動するのに使っているんだがな……。ただ、出現ポイントが古代の地形と今は多少変わっているから、今回みたく崖の寸前に出る事もあるんだ。……ああ、地形の更新が出来たら良いのに……こういうのは色々不便で面倒だ。はぁ~……」 「ぐんじうんえい、てき?」 あれえ? 歴史の説明が? 「ああ、俺が木に引っかかっていた辺りは、人間側と戦闘関係にあった頃は魔王軍の出現ポイントの一つだったんだよ。以前は色んな施設があったみたいだが、今は風化や破壊でさすがに目立ったものは残って無いんじゃないかな?」 「…………………………」 あ、あの薬草の分布にこんな裏が……。しかもだ、 「じゃ、じゃぁ……シュトールは……? 魔王一族の……?」 「……別に隠す必要が無いから言うが、俺の父親は"現魔王"だ、アサヒ」 「は? ……はぁ?」 俺のややポカンとした間抜けな声に、シュトールは少し"察しろ"といった風な視線で俺を見てきた。 だが、そんな事を急に言われても……もう少し具体的にだな…… 「だから……俺は現魔王の第一子だ、息子、長男なんだ! ~~~魔族なんだ! ほら、耳を良く見ろ!!」 「……へ? あ……少し尖ってる……」 そう語気荒く俺に捲くし立て終わると、シュトールはサイドに流している髪を耳に掛けて、俺に左耳を見せてきた。 見て納得した。それならあの咽返る魔力も分かる~。魔族で魔王の息子~へ~ふ~ん。 そして見せられた左耳は、先端が少し尖った耳……つまり、俗に言う、"悪魔耳"だ。 まぁ、魔族がほいほい歩いているわけないから、これは珍しい。 そうなると俺の近くが安心するのも、俺のスライムな闇族……魔族気質が作用しているのからかな? 一応、俺は"人"だけどさ、スライム的な能力もいまだ持ち合せているしなぁ……。 「……魔族なのは分かったけど、魔王の息子は現実離れし過ぎ……。俺はもう寝る。すみおやー」 「ほ、本当だぞ、アサヒ! なぁ! ……しかも言えてない……ぞ!?」 俺は勝手に会話を切り上げて、その場に横になった。モソモソと布団を手繰り寄せて寝る意思を見せた。 しかしシュトールは、そんな俺の切り返しに少し食らい付いて、俺の身体をユサユサと揺すってきた。ちょ……揺する速度、速い……。 それにしても、そんな俺を揺すっているシュトールは魔界の王子様ときている……! お、俺はなんつう人物と空間を共にしているんだ……。思考が追いつかない……。 ああ~……でも、王子と分かったけど、いまいち実感湧かない。俺は俺の流れでしか生きていけない様だし、今更態度を変えるのも、変に媚びだすものおかしいし、嫌だ。それに目の前のシュトールも別に俺にそういう事は何も求めていなさそうだ。むしろしたら嫌そうな顔をしそうだ。むしろ、ガッカリする? ……とりあえず、少し静かに俺に考える時間をくれ、シュトール! 「……も、もーさ、とりあえずシュトールも好きに寝れば良いじゃん!? このベッド広いしさぁ、その従者くんと一緒の布団で"寝てた"んだろ?」 「ばっ……ろ、ロベルトとは部屋は一緒でも、別のベッドだ!!」 ……へぇ? ムキになって可愛いのー。従者は"ロベルト"って名前なの。ふ~ん? やっぱり魔族なんだろうな? 「んでもさ、とりあえずこの通りベッドは一つだし、もうこのままで良いじゃん? 駄目かな?」 「…………確かに。…………分かった……このままで良い……アサヒの部屋だしな……従う……」 「じゃーおやすみー」 そう言って俺は強制的に明かりを消した。 「ん、おやすみ……アサヒ、ありがとう……」 「………………」 ……瞳を閉じてまだ浅い暗闇の中、ちょっとその台詞は反則だろう? ―……少し頭撫でたくなった……。 …………ルツの頭撫では、もしかしたらこんな気分なのかなぁ? 俺はシュトールと背中合わせに、そんな事を考えていた。

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