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第79話 商人の"目" -2-
朝食後、俺はシュトールと別れて宿から一歩出た。出際にネルから「いってあっしゃーい」と声が掛かった。舌っ足らず感が可愛いもんである。とりあえず「おう」とだけ答えておいた。
そして宿の前はさ、道を挟んで直ぐにギルドなんだけど、そのギルドから出て来た人物を見て俺は何となく"チャンス"がやって来た気がしたんだ。
その、出てきた人物はさオレンジ色の髪をした……
―……エメル。
だってさ、商人として色々な所に行っているから、エメルなら何か色々知ってそうじゃないかと!
そう結論付けて俺はエメルに声を掛けながら、彼の元に向かった。
「おはよーエメル! 今良いかな?」
「……? ああ、アサヒくんおはよう。別に良いけど、僕に何か用かな?」
あるある! 大有り!!
「うん、聞きたい……相談したい事があるんだ」
「相談?」
「ん、エメルなら色々知ってそうだから、何か答えを出してくれると思って……」
「僕の事、そんなに買ってくれるの? 嬉しいかな……。良いよ、相談事なら僕の家で話しを聞こうか。こっちだよ」
俺の言葉にあっさりエメルは了承してくれて、自宅で俺の話を聞いてくれるみたいだ。なので俺はエメルにくっ付いて彼の家へと向かった。
何となく分かる道と、初めて入る道が混ざり合った先にエメルの家が有った。家と言っても、脇に倉庫みたいな建物が何件かあり、"家"と言う雰囲気とは何だか少しずれた感覚を受けた。
エメルはそんな俺を引き連れて普段通りなのだろう、鍵を開けて家に招き入れてくれた。
そんなエメルの家の中は静まり返っていて、少し人の気配が薄い気がした。……ま、人の気配が薄いのは、エメルが商人として、あちこちに行っているからなんだろうけどさ。
「ディルは外か……ま、しばらく帰ってこないかな……」
家の内で視線を左右に動かしてエメルはそう結論付けると、「アサヒくんにディルを紹介しようと思っていたのに……」とボヤき始めた。
何だ……エメルの話しから行くと残念だなぁ……。確かにここまで来たら、エメルの相棒のディルさんに会える確率も上がっていたのに、すれ違ってしまったのか。また次の機会になってしまった……。
そして俺を居間に通してくれると、エメルはさっと俺の前から消え、僅かな間で飲み物と茶菓子を持って現れた。
「勝手に紅茶を淹れたけど、良いかな?」
「うん、大丈夫だよ。エメルありがとな……。それにしても、外の倉庫? すごいな……」
「ああ、アレ? うん、まぁ……僕は決まった物しか扱うわけじゃなくて幅広く何でもやるからさ、保管に必要なんだよねー」
「なるほど?」
「それに今頼まれている商品の確認と積荷作業がなかなか進まなくてね……」
「そっかぁ……大変だなぁ……」
「そうなんだよー。はぁ……倉庫番も出来る、金銭感覚に長けたお手伝いさんが欲しいなぁー……張り紙でも出してみようかな?」
エメルのこの何気無い一言で俺はスイを思い出した……。
スイ、上手くやってるかな……借金がどうのこうのとか言っていたけど……。
スイが知らずにスイの家族の誰かが作った借金だけど、一人で何とか返済してるとか言っている位だから、幾分か金の使い方とか……分かるんじゃないかなぁ……? あと、多分スイは真面目な性格してそうだし……。エドの所で女装しながら家政"夫"として働いている位だし、俺はジャムしか味を知らないけど、料理も掃除も大丈夫なんじゃないかな……。
「……? おーい、アサヒくーん? どうしたの? 遠くを見る目なんかしちゃって……」
「あ、いや……ちょっと……お手伝いさんで思い出す人物が……」
「そうなの? 何? 僕に紹介してくれるの?」
「い、いや……したいけど、出来ないっていうか……すごく条件満たしてそうなんだけど……」
「そう? じゃ、出来る時に紹介してよ?」
「……あ、ああ……うん……、分かった」
紹介するにしても、俺が一方的に知っているだけで、知り合いって呼べるものじゃないからなぁ……。多分、無理だろ……。ま、先の事は分からないけどさ?
「それで? アサヒくんの相談って何かな?」
「ああ、んとさぁ……」
そこで俺はシュトールの事をエメルに簡単に説明したんだ。
夜、護衛になるものが無いと安心して眠れない人物と、ふとしたきっかけで知り合った。年齢は多分、十六歳くらい……で、性別は男。
そして今は、そいつは連れと離れ離れになっていて迷子で俺と夜は一緒に居るんだけど、俺やそいつの連れがが居ない時等を切り抜ける何かエメル的な意見が欲しい……と、まぁ、こんな感じだ。
「……ふぅん? 何だか特殊そうな人物だね……」
「まぁ……特殊だな。うん……」
何てったって、"魔王の第一子"だからな。
まぁ、そんな荒い内容の俺の相談話を受けて、エメルは瞳を閉じて考え出した様だ。少しすると、眉毛がピクピクと動き出して、一人で「うんうん」言い始めた。どうやら答えが決まってきたみたいだ……。俺はそんなエメルの変化にワクワクしながら、答えを待ち望んだ。
「……えーと? "人"に代わる物……代わるもの………………そうだなぁ……人形、とか? まぁ、ヌイグルミ?」
「にんぎょう? ぬいぐるみ?」
「うん、そう」
なぜこの話の流れで"人形"や"ヌイグルミ"が出てくるのか……。
「アサヒくんの話しから、"彼"みたいなタイプが持つとしたら、あっちよりあの方が良いよなぁ……うん……」
しかし、俺の疑問など気にせずエメルの中ではどんどん話しが固まって来ている様だ。一体どんな答えを導き出したんだ?
しかもそんな悩んでるところを見ると、紹介候補の人物がエメルの中には複数居るって事?
「……じゃ、"ドールマスター"を紹介してあげるよ!」
おお?決まったのか! さすがエメル顔が広そうだもんな。相談して正解だな! やった!
んでも、答えの"ドールマスター"……とは?
「どーる……ますたー?」
「そうそう、"ドールマスター"! 職業として、人形使いの事だよ。
彼が作る人形の中で、子供の遊び相手として自動稼動可能で軽い護衛機能や、他にも色々機能がある人形も作っているから丁度良いんじゃないかと思ってさ!」
「へぇ? 凄いじゃん……!」
「本格的なのより、子供用が良いと思うよ。手ごろでいろんなタイプがあったと思うから、見た目にも楽しいよ。あと、柔らかい素材で作られている子供用の方が触り心地が良いよ」
「子供用かぁ……」
俺の言葉に笑顔で頷いて、エメルは次の提案をしてきた。
「僕が彼に紹介状書いてあげる。それでさ、……その代わり……その子を僕に紹介してよ? 良いかな?」
「……別に良いけど……?」
どうやらエメルはシュトールに興味が湧いた様だ。
「それとアサヒくん、折角だからギルドに依頼した僕の"お使い"こなしてよ! 今からギルドに行くから、着いて来て!」
「あ……うん?」
「ほらほら、行くよー」
そう言うとエメルはいそいそとギルドへ出発しだした。
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