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第81話 商人の"目" -4-
そして、その夜、シュトールは俺の隣りに枕を置いて整えながらボソリとこんな事を言い出したんだ……。
「……この状況…………迷惑……だったな?」
驚いた……。そういう風に感じていたのか……。どこか哀しげな声色に、俺はシュトールに視線を向けた。そして俺の視線の先のシュトールは確かに僅かに眉根が下がり、どこか哀し気な雰囲気が漂っていた。
まぁ、俺も一人で勝手に色々し過ぎたな……。
「……あのな、シュトール……"迷惑"、とかじゃなくて……俺だって一時的な存在だろ? それじゃ、今後シュトールが大変かと……」
「アサヒ……?」
俺の言葉に、枕から俺にその哀しさを纏っている視線を向けてきた。
「ま、人形さけどさ、その"ドールマスター"が作る人形は自動稼動可能みたいだし、子供の遊び相手とか軽い護衛機能とか色々ある人形だからシュトールに丁度良いんじゃないかと思ってさ? ……俺も詳しくは分からないけど、シュトールに合っていると思ったんだ……」
「……そうか……」
「……んでも、一人で勝手に突っ走りすぎたな……悪い……。でも、迷惑とか思って無いからな?」
「……アサヒ……うん、分かった……。俺の事、そう考えてくれたんだな。ここは有難う……だな」
そう言うと、シュトールは俺に微笑んできた。シュトールが分かってくれた様で、良かった。哀しいのは、やっぱりお互い辛いしな!
「……どんな人形にするか、考えとけよ?」
「ああ、そうだな……。どんなのを傍に置こうかな……? むしろ、どういうのを作っているんだ?」
「……さぁ?」
俺も詳しく知らないし……。色々な種類がある子供用がオススメなんだっけ? だから俺はそのままの事をシュトールに伝えたら、「そうか……子供用か……」と返された。
「それにしても、俺にこんな事を薦めてくるのは、アサヒが初めてだ。これで俺も万が一の時でも大丈夫だな」
「……今まで一人になった時はどうしてたんだ?」
「実はこんなに長く連れと離れるのは今回が初めてなんだ……。だから……」
「?」
「……アサヒと知り合えて良かった」
か、可愛い事言うじゃないか……!
「そうかそうか……うんうん……」
「あ、頭を急に撫でるなッ……! そんなに子供じゃない!」
「んじゃ、幾つなんだよ?」
「…………十六歳……」
「なーんだ、グリンフィートと同い年じゃんか」
「ぐりんふぃーと?」
「あれ? そういう情報に疎いの? グリンフィートは現勇者の名前だよ」
「ああ、そうか……。俺はあんまりそっち方向に興味無いから。出来れば次の魔王指名は弟にして欲しい……」
なるほど? シュトールは権力とかそっちはの方向は興味無いのか。しかも弟がいるのかー。お兄ちゃんなのかー。
そんな他愛ない会話になってきて、最初の少し重苦しい雰囲気が和らいだ来たのは嬉しいかな。
「んじゃ、明日の出発の為に寝るか」
「そうだな……おやすみ、アサヒ」
「おう、お休みー」
そして俺達は一つのベッドでそれぞれの眠りについた……。
……んだけど、初めての遠出に楽しみのあまり目を閉じて暫くタヌキ寝入りしていたのは、俺だけの秘密だ!
翌朝になり、俺達は準備を整え終えて今はもう城壁外に居る。
俺はエメルに書いてもらった簡易の地図を見て、目的の方向へ視線を向けた。
エメルから教わったドールマスターのユーゲンティナーさんは、どうやら王都から少し離れた湖畔の砦に居るみたいなんだ。
なんでも、現在は湖畔の砦の管理人でもあり、ドールマスターでもあるそうだ。
俺はエメルに書いてもらった簡単な地図を片手で持ち、確認しながら紹介状を懐に入れた。
今回は俺は大量に物が仕舞える"アイテムボックス"を使わないで、肩に斜めに掛けている大き目のショルダーバックの中に"羽布"と最低限必要な物を入れ、どうせ直ぐ着くからと大した装備はしないで行動重視の軽装だ。一応、二剣は佩いているがな。
地図を見て、目的の湖畔には行程的にそんなに掛からないだろうと俺は予測した。単純に考えて、明日か明後日辺りには王都に帰って来れそうだ。まぁ、エメルも「そんなに遠くないよ」と言っていたしな……。
一応、中間地点辺りにそれなりな宿場が存在しているから、そこを必要なら利用しようと思う。最悪野宿でも、この暖かい気候ならそんなにそれも苦にならないと踏んでいる。これはシュトールの意見も聞いて決めた事だ。
「じゃ、シュトール行こうか?」
「……分かった。行こう、アサヒ」
―……そして俺とシュトールは王都から、湖畔の砦を目指したのであった!
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