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第83話 魂で踊れ!!ポンコポンコダンス! -2-

―……ガサッ! そして突然、前方を走っていたタヌキが右の青々とした背の低い茂みに飛び込んだ。 俺は見失うわけには行かないので、そのままタヌキと同じ進路を取った。茂みを見やると、タヌキが移動していると思しき所がモコモコガサガサと動いて、奥へと忙しなく移動している。 それを見て、「……行くしかないな……」と独り言を呟けば、「そうだな」とシュトールが返してくれた。……だよなぁ。行くしかないよな……荷物大事だしな。 「じゃ……シュトール、行くぞ!」 「分かった、アサヒ」 そして俺はシュトールを軽くおぶり直して、例のタヌキの後を追った。 とりあえず見える範囲で動いてくれるからまだ追いかけられてるけど、この草の背丈が高かったらそれはそれで辛い追いかけっこに成っていたと思う。 そして前方が段々と明るくなって、茂みが薄れたと思った時、俺達はやや広めな空間が森の中に空いる場所に出た。 「……何だ? 誘いに乗って来たけど、タヌキが増えた……!」 そしてその空間には、すでに俺達と対峙して向こう側に数匹のタヌキ達が先客として居たんだ。その中にはもちろん、俺の荷物を盗って行き、ここまで誘って来たタヌキも含まれている……。 そして、今、俺達とタヌキ達は無言で向かい合い、お互いの姿を確認している最中なのだ。 俺はそんな視線を彼らと絡めながらシュトールを下ろしたら、先手か後手か……そう思案して居る時、一つの張りのある音が突然響いた。 ―ポン! 空気が震えて、自然にその音に耳、そして目が惹き付けられた。 ―……ポンポンポンポン!! ……何だァ? こいつら……自分の腹を太鼓に見立てて、踊り出した……? しかも、そんなブレイクダンスの様な踊りを腹太鼓で? しかもなかなかキレがある良い動きだ。地に半分寝そべり、脚を高速回転させながら軽快に回転しているタヌキに正直、見惚れた。 俺がそんな見た目タヌキの魔生物を見ていたら、突然頭上からシュトールが言葉を発した。 「良し、……次はアサヒが踊るんだ! チャンスだぞ! 魅了効果を含んでいない、ただの踊りだ!」 「……はぁ!?」 俺はシュトールを未だおぶっている為、俺の頭の上の方にある彼を振り向き仰ぎ見た。 「彼らが"踊って友好を示している"内に、こちらも同じ事を返すんだ。そうしないと、飛びかかって来るぞ!」 「いッ!?」 「本来は"魅了"が含まれる踊りをするんだが、今はそれを含んでいない……つまり、理由は分からないが俺達と"普通に友好関係"を築きたいと思っている……んだと思う。……ああ、それとアサヒ……そろそろ下ろしてくれ……」 「あ、ああ、分かった」 「まぁ、魅了とか無くても可愛い形をしていると思うんだがな……」 俺はその言葉にシュトールをその場に下ろすと、彼はすぐさま空中に魔方陣を展開してきた。薄く黄緑色に輝く魔方陣で、俺達をサンドする形でそれは左右に出現したんだ。 一瞬、本当に出現した魔法陣は何かと思ったんだが、それから緩い熱風が出た来た時、俺はシュトールが"乾かす行為"を始めたのだと理解した。 熱風に暖められながら、タヌキの踊りを見る……。次……俺が踊らなきゃ成らんの? マジで? そしてシュトールにはこのタヌキ達が可愛く映っている様だ。……まぁ、可愛い……かなぁ。黒目がちだし? 小さいし? 俺はタヌキの踊りを見ながら、自分に急にかせられた内容に戸惑っているんだが……。 「アサヒ、"同じ"に……まぁ、似ている雰囲気で返してみると良いかもしれんぞ?」 「……似た踊りって事か……?」 「そうだ。同じ動作で何かしら一体感が生まれるかも……」 「……そうか……良し、一つ……やってみるか……!」 よーし、俺は決めたぜ! まだ濡れている衣服は正直邪魔に感じたので、上着だけ脱いでシュトールに乾かす続きをしてもらう事にした。ようするに、俺は今、上はシャツ一枚だ。更に双剣もベルトごと外してシュトールに任せる。身軽な方が良いと思ったからだし、踊りの動きの妨げになりやすいからな……。いざとなったら、体術で何とかなるだろう。 そして踊りとか正直サッパリなので、スキルに頼る事にした。俺の中に存在したんだよ、こういう系統の方々がさ! つまり、このスキルを使って、タヌキの動きをトレースしていくんだ。 俺がそうしている内に、どうやらタヌキの踊りは終わった様で、最後に俺達の前に来てバクテンを決めてスルスルと仲間の下に踊ったタヌキは帰って行った。 さて、タヌキの楽師さん達はそのままポコポコ腹太鼓の音を、俺にも提供してくれよな? じゃないと、少し寂しいからさ……。 そんな事を考えながら俺は広場の中央で"タヌキの踊り"を始めた。 これは……これは……慣れていない分、恥ずかしい! 動きは十二分に出来ているとスキル様々なのだが、気持ちが……! こういうのはさ、多分思いっきりが大事、なんだが…………! ―……ポポン……ポコ…… ……あ。音が無くなったかぁ……。まぁ、想定の範囲内だけどやっぱり寂しいもんだな……。 でも、俺はなるべく同じ感じに動いているが、本当にこれで良いのだろうか? シュトールもタヌキ達も腕を組んで俺を見ているが、シュトールは満足気でタヌキ達は値踏みしている様だ。何だコレ。 それに結局どの系統の踊りが気に入られるか全く分からないから、複合技で攻める事にした。少し気の向くままに動いてみる。 すると、そんな少し変化した俺の動きに先程腹太鼓をしていたタヌキの数匹の耳がピクピクと動いているのが分かった。 どうかな? 音を、出したくなってきた……のかな? ―……ポン! ……ポコポコポン! ポコポコ! 「……アサヒの動きに合わせて、腹で音頭を取り始めた?」 おおー!? タヌキ達の琴線に俺の踊りが触れたのか! これは、"波"が来ているのでは!? 俺が一人、鳴り出した腹太鼓の音に歓喜していると、その音に釣られる様にジワジワとリズムをとりながらタヌキ達が動き始めた。タシタシと足踏みしながら自由に動いている様で、そうではない様なお互いにぶつからない絶妙な間合い。 ―……そして何時しか俺は動き出したタヌキ達に囲まれていた。 何だ? 何なんだ? この流れは……。 そこで俺は勢いのままその中の一匹の手を取ると、そのままタヌキの数珠繋ぎが出来た。俺達は今、一つの輪になっている。 そんなタヌキと俺の今はただグルグルと回っているだけの動きに、シュトールの興奮した声が投げかけられた。 「アサヒ、アサヒの踊りが認められたんだ……すごい一体感だ!」 「……みとめられ……?」 そりゃぁ、急遽あらゆる"踊り子"や"楽師"スキル使ってるから! 他にも使えそうなのは大判振る舞い中だ! しかも、こうして今は一緒に手を取って踊ってるし。これ、ポイント高くないかな? ―……ポン! ポポポポポン!! そしてやがて、いかにも"〆"と思われる腹太鼓の音と共に、タヌキ達と俺は動きを止めた。 俺は音が止んだから、握っていたタヌキの手を離した。少し"ムニッ"とした、手で少し癖になりそうな肉感だった。 そしてその場ですぐさま踵を返してシュトールの方を向いて、俺は歩き出した。だから、後ろがどうなっているのか全く気に留めていなかったんだ。殺気とか、全く無さそうな空気しか無くてさ、俺もやり切ったという充実と安堵で一杯だったんだ。 歩きながら俺は先程の一体感と高揚した気分のままに、シュトールに声を掛けた。 「シュトール! どうだった? ……俺的には成功していると思うんだけど……」 「……ああ、"大"成功だ! ニードルポンコ達に……すごく気に入られたみたいだ……。だって、…………激しく拝まれてるぞ」 「え!? ……ぁ……本当、だ……!?」 シュトールの驚きの含まれている賞賛の言葉の内容に、俺はすぐさま後ろを振り返った。だって、"激しく拝まれている"って。 そして、それは実際の光景で俺の視界に飛び込んできた。 全員が膝立ちで、両手をすり合わせながら何かをムニャムニャ唱えているんだ。 俺がその光景に固まって立っていると、先頭でそのポーズをしていた他のより少し大きめな白いタヌキが立ち上がり俺に近づいてきた。少し大きめと言っても、1m位かな……? やがてその近づいてきたタヌキは"クッ"と表を上げて、俺に視線を合わせてきた。 タヌキにも、個々の面構えや気質ってのがそれぞれあるんだな……。今、俺の目の前に出てきた奴はどうもリーダー格な雰囲気だ。 そして彼……は俺の正面に立ち、大きく両腕を広げながら"言葉"を発してきた。 ≪オマエノオドリ、カンドウシタ……ムネガアツクナッタ!≫ 「喋れるのか……?」 ≪シャベル?≫ 「……ああ、魔獣使いの能力か……結構自然だったから分からなかった……」 「何だ? アサヒはニードルポンコの言葉が分かるのか!?」 「……うん、まぁ……分かる……」 そうやら無意識に能力が発動した様だ……。相手のタヌキも動きで何とかし様としていたのが、まさか俺が言葉を理解するとは思っていなかったらしく、丸い黒目がちな瞳を更に丸く揺らして驚いていた。そしてそれはシュトールの同様だったみたいで、彼も驚きの表情で俺を凝視してきた。 ≪……コノジカンノナイナカ、コトバヲリカイデキ、"オドリ"ニコタエラレルアイテトコウシテムカイアッテイルトハ、ツクズクワレワレハツイテイルノカモシレナイ……≫ 「?」 ≪…………スコシ、ヨリミチシテモラオウカ……≫ 「……!?」 リーダー格のタヌキの言葉が終わると同時に、周りの茂みから更にワサッとタヌキ達が何かを担いで出てきた。何だ……? "籠"と……"御輿"? そして俺は疑問に思っても質問も、ましてやシュトールと相談も出来ぬまま何故か一方的に、勢いに押し切られた形で広場から"御輿"に乗せられて運び出された。どうやらこの御輿、一人用らしく俺とシュトールは別々だ。俺は御輿の上からシュトールに声を掛けようとしたが、シュトールはどこか楽し気にしている。そんな感じで"セイヤセイヤ"と言っていると錯覚しそうなリズミカルな動きで、俺達はなすがままだ……。 御輿には俺達で、籠は一部のタヌキが乗っているらしい。……俺の荷物はどの籠に同乗しているんだ……? 「……はぁ……」 俺は気持ちを少しでも切り替えようと、御輿の上で一つどうしようもない気持ちを込めた溜息をついた。

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