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第85話 魂で踊れ!!ポンコポンコダンス! -4-
「……………………自分達で、しないのか? "戦える"んだろ」
≪モウシタ! アイツラオカシイ! "ヒト"トクンデル!! チカラノサガ……ウマラナイ………………ムシロ、ハナサレテルトカンジル……≫
「………………」
≪ジツハモウ、ジカンモナイ……ソロソロアイツラガクル……ミテロ≫
現れたのは、長身の人物と背の低い人物の……多分、男の二人組みだった。背の高い方のと低い方の。衣服の共通点は二人ともフードを目深に被っている事で、背の低い方の上着の袖の裾がやけに広がっているのが特徴だ。そして背の低い方は高い方に付き従っている感じが見られる。多分主従関係の二人なのだろうか。ただ、ゴブリン達との力関係は歴然で二人が歩くと、ゴブリン達は逃げる様に道を開けて一応、その場に留まる。
そして背の高い方はゴブリン集団のボスに何か指示を与え始めた様で、遠いながらもそのゴブリンのガザついたデカイ声が時々聞こえてきた。
まぁ、簡単に内容をまとめると、『明日、子供のニードルポンコ達を引き取り、ここは引き払う』と言う内容だ。
―……明日……。
……助けるチャンスは明日以内。
正直、時間が無い。でも、ここまで見せられて話しも聞かされた上で、俺は……もう選択は一つしかないと答えを出した。
「……分かった分かった……助けるよ……。子供達を捕られているなんてな……見過ごせない……」
≪~~~!!!≫
俺の回答に、ワサワサ着いてきた近くの……今なら分かるが、子供達の親のニードルポンコ達が一斉に群がってきて、俺をそのままの勢いで倒し、言葉の通り『キスの嵐』をしてきた。いたるところから小さいリップ音が聞こえてくる。
そして俺は視線を下に向けた事で、ある自身の変化に気が付いた。
「あ、れ? 何? この痣みたいなの……」
≪コウシンジュジュツデ、オマエガニゲナイヨウニ"ノロイ"ヲカケタ≫
―"口唇呪術で、お前が逃げない様に"呪い"をかけた"……?
……ええ!? あ、あのキスって感謝の現れじゃないの!?
腕を見ながら不思議に思っていた俺に、ポンコが"ニタリ"とした笑みを浮かべながら見上げてきた。見れば、彼の後ろには親ポンコ達がわらわらと集まっていた。
そしてリーダーのポンコはその一種不気味な笑みを貼り付けたまま、俺の周りをぐるりとゆっくりとした足取りで一周すると、再び今度は覗き込むように言葉を発してきた。見上げる瞳が限界まで見開かれて、黒い瞳孔が俺をその逃げ場の無い檻に捕らえていた。
≪トイテホシケレバ、サイゴマデシッカリツキアエヨ? ……アサヒィ~……≫
「……~~~!!!!」
俺を取り囲んで全員が声ではなく、瞳に笑みを湛えて見下ろす様はまさに悪人面だと感じた。俺は寝転がった姿で動きが止まった。
何と言うタヌキ達だ! ……ま、半分は"蜂"なのかもしれないが……。
見た目タヌキなニードルポンコをタヌキとして、タヌキはラスカルでラスカルは悪人の比喩だ。タヌキ親父とか言うじゃん? あれ? 違うか?
……とにかくどうやら本来の目的のドールマスターに会う前に、このニードルポンコ達の子供をあのゴブリン共から助けないといけない流れになってしまった。
―……エメル、すまん。羽布のお届け……なるべく急ぐけど、遅くなりそうだ。そしてシュトールのドールも結果的に遅くなる……。
荷物も取り上げられたままだし、魔法符で連絡も出来ない……。あまり乱暴するのは嫌だし、もしかしたら多勢に無勢で負けるかもしれない。
そしてたった今、あの子供達を見た後だ……。"助ける"と言った手前、ポンコ達と戦うのは違う……だろ?
しかも、今更だが俺はシュトールに武器と上着を預けていたんだった……。思い出せばシュトールは今、俺の荷物を持っていない……多分、アイテムボックス辺りに収納してくれている……んだと思う。だって、取り上げられている姿も見てないしな。機会を伺って返してもらおう……。
ああ……それに俺達、武器とか色々チェックされずにずっと居るんだけど……良いのか? 客人の様な、そうじゃない様な……妙な扱いを受けている気がする……。
まぁ、ポンコ達を手伝うに当たって、武器は必須になるから今の状態の方が好都合だけどな……。わざわざ余計そうな事を口にしなくても良い……かな? うん。
「……ところで何で子供達が掴まったんだ……?」
俺はとりあえず身を起こしながらポンコに聞いてみた。
≪……モドリナガラハナシテヤル。カエルゾ≫
「……分かった」
―……それから、俺は実際ポンコに戻りながら話をされた。俺がそれを簡単にまとめるとこんな感じだ。
子供達が浚われ……まぁ、ゴブリン達に襲撃を受けて生け捕りにされた日、ポンコ達大人は少し遠めの狩りに出掛けていたんだそうだ。
そして子供達は集団で本来の棲みかの近くにある川に仕掛けている網を取りに行っていたそうだ。……ってか、そんな……何と言うか、器用だな……。
まぁ、その"網"で、子供達は魚ではなく、自身をゴブリン達に捕らわれてしまったのだ。
狩りの終わりに川に寄って子供達と帰るつもりだったポンコ達は、そこで見慣れない複数の足跡を発見するんだな。そしてその足跡を追った先に居たのが、先程見せられたゴブリン達の集団と、そのゴブリン達を意のままに操っている背の高いのと、それを護衛している低い、人間の二人組みだったと……。
しかも、何かで強化されて数段力が上がっていた状態が続いているのだそうで、救出に向かってもなかなか歯が立つ相手じゃないのだそうだ。……程度は知らないが、一応、戦闘が出来るポンコ達にとっては悔しいだろうな……。
そしてあの人間の話だと、どうやら子供のタヌキ達に買い手が見つかった様で、取引の為についにここを離れる事になったと……。
愛玩か毛皮か……行き着く先は分からないが、そんな結果は許せないと。まぁ、そうだな。当然だ。
……と、なると、どうやら先程の光景は最終確認の状況だったのか……。
―……そして話も終わり、例の荒れた屋敷に着いた途端、ポンコは立ち止まり俺を振り返った。
≪……アサヒ……アノニンゲンノセノタカイホウハ、トクニキヲツケロ。セツメイデモイッタガ、ナニカセイシンニサヨウスル"ジュツ"ヲツカウゾ。アイツノマワリハ、ナカマモフクメテ"クグツ"ジョウタイダ。"メ"ヲミレバワカル。"イシ"ガカンジラレナイ≫
「……"クグツ"? ……操られているって事か? あの、後ろに付き従っていた背の低い方も含めて……か……」
背の高い方は、仲間も仲間と思っていないんだろうか……。しかも精神に作用する術ぅ? ……それって結構厄介じゃないかな?
だからあのゴブリン達は現れた二人組み……特に背の高い方に怯えた態を見せたのか。
「あー……ところでさ、俺からさっき盗ってった荷物、返してくれよ。ちゃんと最後まで手伝うしさ、な?」
≪……ワカッタ。アサヒノニモツノ"イチブ"ヲカエス。ノコリハオワッテカラダ≫
「え? えええ?」
ぜ、全部返してくれよ……!
俺の心境を知ってか知らずか、ポンコはそう言い残すと何処ぞへと行き、そして俺にとって見慣れた袋を持って帰ってきた。
≪デハ、コレヲカエソウ≫
「……ありがとう……」
そして俺はポンコから、荷物の一部……"衣類"……まぁ、"お泊りセット"的な物を返された。あとは全部未だに物質だ……。
これで着替えは出来るが、何だか……違う気がするのはどうしてだろう……? ってか、わざわざコレを選ぶとは……。
それからポンコと分かれて今、俺は衣類等を入れた袋を小脇に抱え、頭を捻りながらシュトールの元へとポンコとは別なタヌキに案内されている最中だ。
この連れて来られた屋敷……かなり老朽化が進んでいる様だ。普段の俺なら、よっぽどでなければ見つけても入らないレベルに達している。
それでも今はあの仔タヌキ達に比較的近い場所で夜露が凌げるこの屋敷を、ポンコ達はわざと選んだのだろうなぁ……。
―……どうにか……救出を成功させないと……。
俺は前方を歩く案内役のタヌキの揺れる後頭部を見ながら、不安定に軋む廊下でそう決意した。
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