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第86話 刹那の共有 -1-
案内された先に居たシュトールはニードルポンコ達と食べ物に埋もれていた……。
「……シュトール、モテモテだな……なんだ?撫で終わると食いモン置いて帰るのか?」
「アサヒ……。今夜の寝場所とか食事をどうにかしようと思って、絵を土が露出している所に描いて交渉してみたんだ。そしたらニードルポンコ達が……撫でたら寝床と食べ物くれる、って……ジェスチャーで……」
なるほどそれで……。
そしてニードルポンコ達がシュトールを気に入ったみたいで、周りに一杯侍って撫でられている……。
どうやらこの場に居るニードルポンコ達は全員漏れなくシュトールに撫でられたいらしく、そこに塊を成しているのだ……。撫で待ち……。
もちろん食べ物等と交換条件なので、食べ物を置いていく。どうやら寝床はすでに準備済みの様だ。
軽く山状になっている彼らの持参した物を見てみれば、木の実やきのこや……果実なんかもある。とりあえず、皮をむいたり焼いたりすれば直ぐに食べられそうな物ばかりだ。
「アサヒ、良かったら適当に食べてくれ」
「食いモンか……。ありがとな、俺は適当に貰うよ。……それで、どうする? シュトールは今は手は使えないな」
「まぁ、撫で終わってからでも……」
「……じゃ、食わせてやろうか?」
「……え? あとで……」
―……くきゅッ~~……
「良いから、シュトール、な? ほら……」
「……分かった。貰おう」
「そうだ……あのタヌキのリーダー……白い奴な。"ポンコ"って呼ぶ事にした」
「そうか、"ポンコ"か」
俺がそう名付けたのを口にすると、シュトールの周りに居るタヌキ達が耳をピクピクさせたが、それ以上の行動は無く黙ってこのまま居る様だ。シュトールも俺が来た時と変わらずタヌキを撫で続けている。俺も別に隠す内容の話しでは無いので、このまま食事らしい事をしながら続ける事にした。
「でな、シュトール……ちょっと、話が……」
「何だ? ……むぐ……。さ、早く話せ」
俺の剥いた果実を口にしながら、シュトールは言いよどみそうな俺の話を催促してきた。
そこで俺は先程、ポンコに案内されて見てきた事や、子供のタヌキ達がどういう状況で浚われたかを説明した。
俺が話している間、シュトールはもちろん、周りのタヌキ達も一言も声を出さずにシュトールに大人しく撫でられているだけだった。
「―……そう言う訳でシュトール……悪いな、ちっと寄り道……」
「分かった。俺のはこの寄り道くらい大丈夫だ……。夜はアサヒの近くに居れば良いんだからな?」
「まぁなぁ……ありがとな、シュトール」
「頑張れよ、アサヒ」
「あれ? 俺一人?」
「まぁ、補佐はするけど、俺が出てったら……多分、子供達の目の前が軽くスプラッタに……。抑制の制御はまだ訓練し切れてないんだ」
「そうか……」
巨大過ぎる力も、難しいものだな……。俺はしみじみそう思いながら再び果実の皮を剥く作業に戻った。
あれから暫くして撫で終わったシュトールを見計らって一人ずつ呼ばれて……多分、風呂だなあれは。デカイ壷状の形をしたものに湯を張って浸かり、そして今はあてがわれた部屋のベッドの上にいる。……魔物なのに、何となく俺達に近い生活の感覚を持っている様である。
一通りの事が済み、落ち着いたと感じた俺はシュトールに上着と武器の事を切り出した。
「あのさ、シュトール……俺の上着と武器……」
「ああ、今出す」
俺の言葉を最後まで聞かないで、シュトールは察してくれた様だ。自分のアイテムボックスうをガサゴソと探し出し、やがて俺の前に言った物を出してくれた。そこで俺はシュトールにお礼を言って受け取り、俺のお礼の言葉にシュトールは「ん」とだけ答えて、ベッドの上を移動して俺の横に座った。
「~……はぁ……それにしても、今日は疲れたな……」
「そうだな。まさかこんな事になるとは、思わなかった」
「全くだ。寝るのにも……こうして葉っぱが敷かれているけど、ベッドの上で屋根があるだけでもマシかも……」
「そうだな。今日はもう横になった方が良いかもな」
そう言うとシュトールは身を横たえて、俺の服を引っ張ってきた。そして俺はその緩い力に引っ張れれるままに、シュトールの傍に同様に身を横たえた。
……んだけど、シュトール、何か近くない? しかも機嫌良さそうに微笑んでいる様にすら感じる。
「俺、葉っぱのベッドで寝るなんて、初めてだ」
「……俺も……ないな。初めてだ」
少し興奮気味にシュトールが話してきた。
「……せっかくだから、もっと味わってみたい」
「は?」
そういうと、軽く上をシュトールが脱ぎ始めた……って! おいー!
……ま、脱いだ下には薄い袷の着物見たいなのを着ていたが……。
「へぇ? 思ったより柔らかくてスベスベで気持ち良いな……アサヒも脱いでみたらどうだ?」
「んー……そうだな……」
そこで俺も上着だけ脱いで葉っぱの上に寝転がってみた。
「シュトールはさ、自分の存在をポンコ達に教えないのか?」
「ああ、その事か。そうだな、教えないよ」
「何でだ?」
「面倒だし、このままの方が色んな面が分かる……。それに魔族だから、俺の存在を知ったら"つまらない対応"に変わるかもしれない。ま、必要だと感じたら言うかもしてないけどな。今は必要無い」
まぁ、シュトールは魔王の息子だしな……。
「……それよりアサヒ……随分"つけられた"な?」
「何の事だ?」
「"これ"の事だ」
そう言うと、シュトールは俺の腕についているポンコとあのタヌキ達がつけた"術"の一つを指してきた。
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