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  どれほどの時が経っただろうか。 ふと、かすかな足音を聞きつけて、秀人は重たい瞼を開き目を凝らした。 そして、愕然とする。 ゆっくりと近づいてくる足音。少しずつ強くなる甘い香の匂い。 秀人の直ぐそばまでやってくると、足音は止まった。 「………目、覚めた?」 ずいぶんと穏やかな声だ。床に落ちたままだった秀人の服を拾い上げ、敦也は嗤った。 秀人はやってしまったと唇を噛んだ。 胸を穿たれたような痛みに身体が軋む。赤黒いモノがドロドロと内臓をえぐり、鉄の臭いを纏うソレが憎悪を掻き立てた。 秀人の様子に気づいて、敦也はうっそりと目を細める。 「──後悔をさせるつもりはないよ。ココから始まると思えば少しは楽になるでしょう?」 ほら、口を開けて。秀人の我が儘を一つ聞いて上げるって言ってんだ。 驚愕のあまり震えている秀人を一瞥し、兎の皮をかぶった敦也は既に乾ききった秀人の唇に手を当てた。 敦也の唇が歪む。すべてを閉ざそうとする秀人に怒りが満ちたのか、敦也はその口端に親指を突っ込んで無理矢理口を開かせた。 「大丈夫、最初だけだから。オレの声だけを聞いて」 「………や、…め………っ!」 敦也の爪が、下顎に食い込む。柔らかい皮膚が裂かれそうになる痛みに目を剥くが、徐々にその激痛が灼熱に変わった。 痛みを堪えながら秀人は、敦也の胸に手を付き押し返そうとする。が、その手を掴まれて寝具に張り付けられたらどうしようもない。ドロッとした無味の液体が有無を聞かず、彼の喉を通過する。 次第に秀人の理性が溶けるようにその場が静かになった。 もがいていた身体から力が抜け、されるがままになる。そしてとろんとした目はもう誰も見ていなかった。 と、敦也の親指が口の中でざわりと蠢き、ずるりと抜けでる。灼熱の苦痛が和らぐ頃、秀人はボロボロと涙をこぼして泣き出していた。 「………敦也、………俺、………お前と、別れ………たくない………」 抱きしめてと震える秀人に向け、敦也は口端を持ち上げる。 「どうして?別れるって言い出したの、秀人の方だよ?」 立場が入れ替わったように、今度は秀人が敦也に固着し始める。 「………違う、………本心、じゃない………」 「ソレ、さっきも言ってたけど、オレの将来のため?ね、秀人はいつからそんなに聞き分けが良くなったの?」 ふと言い差されて、秀人は奇妙な顔をした。表情が歪む。 「………敦也、………俺の我が儘、………聞いてくれるんじゃないのか………よ」 敦也は優しく宥めるように、そしてゆっくりと頷く。 「うん、聞いてあげるよ。秀人が、コレからもずっとオレの我が儘を聞いてくれるって言うんだったら、ね♪」 「………聞く、………聞くから………」 秀人の口が、一時前とは相反する言葉を並べている。 流石にコレだけ反転したら、秀人に飲ませたモノを疑いたくなるが、敦也が彼に飲ませたのは珈琲ゼリーだ。 「ん、じゃ仲直りのキスをしようか?」 敦也の口が、秀人に近づく。敦也の頭が覆い被さって、秀人の左半分だけしか見れないが、その顔は満足そうに嗤っていた。 「………敦也、ゴメン。………愛してる………」 敦也の首に両腕を廻し、秀人が敦也の首筋に顔を埋めた。 「ああ、オレもだよ。秀人、愛してる──」 寝具に横たわっている秀人の身体を浮かせソレに視線を投じて、敦也はそのままゆっくりと体重をかけて寝具を軋ませた。 第二戦でもおっぱじめる勢いで、秀人に口づけを再び落とす。秀人も満更ではなさそうで、敦也を向かい入れた。 「………この先もするんだろう………?」 鋭い視線が敦也を射抜く。ほら、来いよと誘い入れる声は秀人のモノ。ソレなのに、敦也は首を横に振った。 敦也は秀人を無造作に抱えて引き寄せると、深い口づけを繰り返すだけ。 弱り果てた秀人の身体をコレ以上酷使するつもりはないらしい。 「秀人、オレに焦がれて………、オレが欲しくって欲しくって堪らないって。………オレじゃないとダメだって………さ」 「………当たり、前だろう………」 秀人は舌を突き刺し、敦也に差し出す。 「ん、イイ子………」 その舌に噛みつき、敦也は舌を絡ませる。 ソレを最後に、秀人の意識はふつりと途切れた──。  

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