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転
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数日後に控えた卒業式の準備に明け暮れていた秀人は、心底呆れた顔で敦也を見ていた。
もちろん、この前文にあった内容がその対象になっているのは当然のことだ。が、問題はソコだけに止まってなかった。
「なあ、ソレって、俺がソコまで敦也に信用されてないってことだよな?………そんなに、俺のこと信用できないのか?」
アレほど好きだ、愛してると言ってやっていたのに。
秀人が敦也から冷めていると言われて、極力そう言葉を毎日かけていたのだ。態度が薄い分相手に熱意が伝わらないのだろうと秀人は努力してきた。だが、ソレでも完全に伝わっていなかったようである。敦也がそう言う夢を見たと言うのなら。
幸いと言ってイイのかは解らないが、逐一こう敦也が報告してくれるお陰で、秀人の今後の対策が取れ大いに練られるのであるのだが、イイ加減疲れてきた。
敦也は夢であっても強姦させようとした己が許せれないようで、土下座をしている。いずれまたこのような夢を見たら、今度はちゃんと秀人の我が儘を聞いて別れるとまで言っている。
「敦也、夢でも俺と別れたら絶交な。絶対に許さないから、覚えておけ」
薄く笑って愚問とする秀人に、敦也は苦いモノを呑みくだしながら頷く。
敦也とて、夢であっても秀人と別れたくないところだ。
「………解った。夢のお前にも別れを告げられないように頑張る」
敦也の言葉に、秀人は無言で頷いた。
心理的に見る夢をどうすることもできないのはお互い承知の上。タダ卒業と言う言葉で敦也が不安に思っていることは確かである。
大学の専攻が異なるため、別々の大学にいくことは仕方がないことだ。
「………やっぱり、ルームシェア断ろうか?」
呟くと、敦也が首を振る。真に秀人のルームシェアを頼んだのは、敦也だ。
「一人暮らしはダメ。なにかあったら困るでしょう!」
敦也は、自分以外の男が秀人と同じ部屋に住むと言う抵抗はないようである。
秀人はほのかに眉を潜め、直ぐにその表情を消した。
「じゃ、お前はどうなんだ?」
「寮だから、問題ないよ」
「………寮長が、女だからか?」
敦也の顔が強張る。
「────」
沈黙する敦也に、秀人は更に問いかけた。
「お前のことは信用しているが、相手がその気になったら、俺、太刀打ちできないぞ?………そこんとこ、よく考えて決めたか?」
数日前、敦也が提案してきたルームシェアの件を話し合っていたとき、敦也からそう聞かされて敦也が決めたことだからと秀人はひたすら我慢をした。
だから、秀人は今日まで黙っていた。二人でいられる時間もあとわずかで、自分の我が儘で気まずくなるのも嫌だった。ソレに、遠距離になって、自然消滅になるのだけは避けたかったのだ。
秀人のとなりに敦也の姿がない。少し低めのひょうひょうとした声が聞こえない。そう考えただけで死にそうだった。
「俺は誰かにお前を取られそうで怖い。………俺の不可抗力で取られるのが、一番怖いんだ」
いつも当然のようにそばにいたハズなのに。秀人が呼べば、必ず応えてくれる場所にいたハズなのに。
ソレなのに秀人のとなりに、敦也がいなっかったら───。
「………………ゴメン、浅はかだった。寮長がオレの兄貴の彼女だからって、容易に考えてた」
硬い声で返答する敦也に、秀人は更に言い募ろうとした。が、ぐっと呑み込んだ。
「イイさ、俺も不安なんだ。ソレだけは知ってて」
敦也ははっと顔を上げた。初めて見る秀人の表情に、息を呑んだ。
「四年の辛抱だって解ってる。解ってるが、心と感情が追いつかないんだ」
「秀人……?」
まじまじと見つめてくる視線に、秀人は涼やかに微笑した。
「格好悪いだろう。………お前には我慢しろなんて言いながら」
よくとおる、少し高めの声は彼が恥じている証拠だ。耳に残る。
「俺はドロドロと嫉妬の渦を広げてる。お前のとなりは俺なんだと」
言い含めるような秀人の言葉は、敦也の心を大きく軽くした。
「嬉しい。秀人がそう思ってくれてるって言うだけで」
「敦也、重くないのか?」
声を上げる秀人に、敦也は首を振った。
「………一生、お前につき纏うぞ?」
敦也は瞬きする。彼の様子に気づかず、秀人は悲しそうに息をついた。
「お前が嫌だって言っても、絶対に手放す気はないんだぞ?」
この三年間、秀人は敦也に焦がれていた。
ひょんなきっかけで敦也と付き合うことになってからは、足が地面についていなかった。浮かれすぎて敦也に嫌われないか、不安で仕方がなかった。薄氷の上に立たされている気分で、毎日が不安だった。そんなことを敦也に知られないようにするので、精一杯だったのだ。
ソレなのに、敦也は秀人の気持ちが嬉しいと言ってくれるのだ。
うつむいた秀人の耳に、笑みを含んだ台詞が届いた。
「そう?なら、オレは墓までついていって上げるよ」
怪訝そうに顔を上げた秀人に、抱きついてくる敦也は熱い視線を向けた。
「棺桶にだって一緒に入って上げる。地獄だろうが、秀人がいく場所なら喜んでついていって上げるから」
「なっ………!」
思わず怒鳴り返そうとした唇を、言葉ごと呑み込まれる。
口づけをする寸前に敦也がなにやら呟いていたようだが、さすがに聞こえなかった。
舌が絡んできて、ソレどころではなかった。凛然とした空気の中、不思議と穏やかな気持ちになるのは幸せだと感じているからだろう。
難しい顔をして沈黙している現生徒会長の姿が見えたが、秀人は瞼を綴じた。
「敦也………、愛してる」
うっとりと重なる唇からそう漏らす。
「ん、オレも………愛してるよ」
深く重なる言葉に、今は静かに身を預けた。
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