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第2話

「千裕~。こんなところにいたのかよ。すっげぇ探したんだけど」 「なんだよ……」  特別教室が並ぶ別棟。夏休み前の期末試験の為、部活動や委員会はない。 「真裕が、誕生日プレゼント何がいいのか聞きだして来いって」 「ああ……」  めんどくさい。 「本当に、欲しいもんねぇのかよ?」  本当に欲しい物。 「康介……」 「なんだよ?」  本当に欲しい物なんてない。 「もう、時間ねぇから、早く考えてくれよ~」  本当に欲しい物だなんて願ってはいけない。 「ん?」 「千裕、どうした?」 「なんか、話し、声が……」  どこか苦しそうな、呻き声にも似た声。 「誰か残ってんだろ?でもまあ、テスト期間中だから早く帰れって注意しとくかー!」 大きな声に空き教室からガタリと物が聞こえ、男子生徒が飛び出してくる。教室内に残った一人の男子生徒。その生徒は恨めしい顔をこちらに向けていた。あの顔を俺は知っている。 「俺達も、早く帰ろうぜ」  あの二人は多分。誰にも言えない秘密を抱えている。 「やな、感じ……」 「居残り禁止の時間帯に、あんなところに居るからだろ?」 「……俺達も残ってるけどな」  日差しは陰り、一向に涼しくならない明るい空には、白い丸い月が浮かんでいる。 「千裕が居なくなるからだろ?早く、プレゼント決めてくれよ。真裕が毎日聞いてくるんだよ」 「……なあ、お前たち。もう、セックスした?」 「はぁ?なんだよ、急に……」  赤くなって言葉を詰まらせる幼馴染に、もうすでに経験済みなのだと確信した。 「よく言われるんだ。どうして、そんなつまらない顔をしてセックスするのかって」 「え?千裕、いつの間に?」 「だから知りたい。人がどんな顔で、感じてセックスするのか」  夕日が、辺り一面を真っ赤に染める。 「誕生日プレゼント。康介のセックス。俺に見せてよ。康介の、セックス……」 「なに、馬鹿な事言って……」 「そうだな。俺も真裕の顔なんて見たくないし、良いよ、お前のオナニーで」 「は?それも、おかしいだろ?!」  太陽はなりを潜め、そこには影も境もない同じ色の地面が広がっている。

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