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第4話
「やめ、ろっ……!」
康介の声と共に弾き飛ばされた手が、ジワリと痛みを帯び、頭上では怯えた幼馴染がこちらを見ている。
「ごめん……」
唾液に塗れた康介のペニス。くたりとしたそこに康介はティッシュを宛がい。箱をこちらに箱を投げる。
「……使えよ」
一度も触っていないのに、精液に塗れた自分のペニス。
「千裕……。千裕の相手って、男、なのか……?」
「……」
「別に。千裕の、そう言う事に。口出すつもりはないけど……。その、こういうことは、やめてくれ……」
頭から熱がすっと冷めていく。手から脚から熱が薄れ、背中に寒気がした。
「そう、だよ……。俺の相手は全部、男だよ。色んな人とセックスしたよ。大学生、サラリーマン。ましな人もいれば、気持ち悪い人もいた。でも、ちょっと我慢すれば、お金が貰える……」
「それって……」
「俺は、男に体を売ってるんだ」
だって、欲しい物がないから。欲しい物が無くなってしまったから。
「冗談、だろ……?」
「別に、これでお前から、金取ろうとか思ってないよ」
「当り前だ!つうか、それが本当なら、辞めろ!援交なんて、何も生まれねぇだろ?大体、千裕になんかあったらどうすんだよ?」
「どうも、しないよ」
康介に何が分かると言うんだろう。欲しい物を欲しいと言えない苦しみが。本当は欲しい物が毎日、目の前にある苦しみが。
「いいか?絶対に二度とするな!そんな事続けたら、本当に好きな人が出来た時に、苦しむの千裕なんだぞ?」
本当に好きな人。笑えてくる。
「それが?なんだって言うだよ」
「千裕」
「俺が体売って。お前に何の迷惑かけたよ?偉そうにしてんじゃねぇよ!お前はいつもそうだ。何かにつけて、上から物言いやがって、自分が一番正しいって?どうせ、俺の事だって馬鹿にしてんだろ?自分が居ないと、何もできない奴だって、憐れんでんだろ?」
「んなっ、わけ、ねぇだろ!千裕は大切な親友なんだから、心配するのは当り前だろ」
「そうかよ。お前って、ほんと、いいやつだよな……」
だから嫌なんだ。
「もう、俺の事はほっといてくれ」
康介は何一つ間違った事を言ってない。間違っていないから辛い。
「千裕っ!」
康介の声がドアの中に消えて、むわっとした空気が体にまとわりつく。
ああ、今日の夜は一段と蒸し暑い。
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