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第6話
「キミが、チヒロくん?」
「ええ。チクさん。ですね?」
「うん」
指定された場所と時間に指定した物を持って現れる男。
「本当に、俺でいいんですか?」
「もちろん。随分と当たりを引いた気分だよ。じゃぁ、行こっか」
新しい男が欲しかった。何も知らない、まっさらな男が。
「ホテル、じゃないんですね」
「うん、オレの家。……怖い?」
高層マンションの前で頭を低く下げ話す男は、自分の倍以上あるのではないかと思う腕や脚。目線の先には、シャツを押し広げんばかりの、鍛え上げられた筋肉。
「やっぱりやめとく?」
「……」
ネットで知り合ったこの男に、不感症であると話した。セックスが気持ち良くなりたいと。心の中で燻っている火を誰かに消してもらいたいと。
「壊して、欲しいんでしょ?」
康介とのあの時間を誰かに上書きして欲しかった。
「……はい」
男の部屋はマンションの最上階。それも、ワンフロワーに男の部屋だけ。
「ここのセキュリティが気に入って買ったんだ。こちらから招き入れないと、ここまで上がって来られない」
意味ありげに笑う男にゴクリと唾が喉元を通る。関係者以外ここに来ることは出来ない。裏を返せば、何かあっても誰も助けてはくれない。
「これがラストチャンスだ。引き返すなら今だよ」
この扉をくぐったら、後戻りはできない。いや。戻る場所なんてどこにもない。
「平気、です」
「そう?ならいいけど……」
そう言って男は扉を開く。
これで終わる。何もかもから、解放される。
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