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『旅』
スーツでもない、白衣でもない···お互い仕事から解放されたプライベートの時間。
休みを合わせ、自分達の事を誰も知らない、そして自分達もまた知る人の居ない地へと旅をする。
「あっちですよ、旅館」
穏やかな声で腕を引く恋人は嬉しそうに微笑んでいて。
自分も同じような表情をしているのかも知れないと思うと妙に擽ったい気持ちになる。
「温泉も料理も楽しみですね。」
「ん、ゆっくり過ごしたいな。」
「···あんまりゆっくりさせてあげられないかも知れないけど」
「何か言ったか?」
「いえ、何でも。あ!あれですよ」
ボソッと呟かれた言葉を聞き返せばはぐらかされた。
そのどこかソワソワとしている様子にクスッと笑いが溢れる。
そんなの、望むところだ。
旅行で浮かれているのも、触れたくて堪らないのも···君だけではないのだから。
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