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第23話

  ※ 回想シーンです。2003年(平成15年) 1学期。 「失礼しましたぁ」   声だけ高らかに浅く一礼した後、   進路指導室のドアを閉めて廊下を歩いていると、   グラウンドで部活中の野球部やサッカー部の声が   開いた窓から風に乗って聞こえてくる。 「あ、国枝くん」   階段を上がろうとした時、   すれ違いざまに同じクラスの奴に声をかけられた   国枝あつしは足を止めた。 「なに?」 「さっき進路指導の田中先生が呼んでたよ」 「おっせぇーよ。もう行ってきた」 「そっか。ごめーん」   ぺろりと舌を出した彼に笑いかけて、   あつしは階段を上がった。   階段を最上階まで上がりきった踊り場には   使われなくなった体育用具などが置かれていて   雑然としている。   あつしはそれらを跨いで屋上へ続くドアノブを   握った。   昭和**年代以降あちこちで”学級崩壊”やら   ”校内暴力”とかいった不穏な影が見え始めてから   屋上は完全な立ち入り禁止エリアとなった。   当然ドアには『立ち入り禁止』のプレートが   掲げられているが、誰がやったのか割れている上に   ドアの鍵が壊れていて役に立っていない。   ドアを開けると強い風が吹きつけてきて、   あつしは手を翳して眉を顰めた。   一隅に制服姿の男2人が向かい合って立っている。   1人の方は耳まで顔を真赤にして、   目の前に立っている倫太朗をまともに見る事も   出来ない。   どうやら告白をした直後だったらしい……。   男が男に”恋の告白” ――   男子校では日常茶飯事的出来事だ。   男子・宇田川が恐る恐るといった感じで口を開く。 「そ、それで、返事、だけど……」   倫太朗は頭を深々と下げ。 「ごめんなさいっ」   宇田川は急に気が抜けたようになったが、   明るく笑い出した。   倫太朗は理由が分からず、キョトンとするばかり。 「……あ、ごめん ―― これでもボクとしては  かなり悩んだ末だったから、ようやく結果が  出せてすっきりしたというか、ケジメがつけられて  良かった」 「宇田川……」 「あ、ものの見事に振られちゃったけど、卒業しても  友達でいてくれる?」 「もちろん」 「本当に良かった……じゃ、ボクは行くね。  今日は来てくれてありがとう」   去って行く宇田川と入れ違いに、   昇降口からあつしが現れた。   倫太朗の分のカバンも持っている。 「さて、帰りましょうか」 「うん」   2人は階段を降りながら話す。 「でもさーりん、一体学年いちの秀才くんの何処が  NGだった訳?」 「その件に関しましては、黙秘権を行使したいと  思います」 「お前なー、こんな感じで今年に入って何人目よ。  クラスの連中がお前の事なんて言ってるか判るか?   人間嫌いの鉄仮面だぜ」 「アハハハ~」 「笑い事じゃないっつーの」   途中で迫田が合流、3人で1階の昇降口へ   向かうと ”待ってました”のタイミングで   他校の制服を着た女の子が行く手に立った。 「何か用?」 「桐沢くん。星蘭女学館・3年D組の後藤佳子って  子知ってるよね?」   他校女生徒は強い眼差しを倫太朗に向ける。 「後藤?」   倫太朗の眉が思案気に下がる。   あつしと迫田は数歩下がり、成り行きを見守る。 「後藤佳子よ。生徒会副会長の……」 「あぁ、あの(股のユルい)女か」 「この間の日曜日。私との約束すっぽかしてホテル  行ったって本当なの?」 「おたくに何の関係がある?」 「あれ一回きりじゃないって聞いたけど?」   問い質す女生徒の声が震えている。 「んなこといちいち覚えていられるかっての」   悪びれず、うんざりした表情で吐き捨てる倫太朗に   カッとなった女生徒が右手を振り上げた。   次の瞬間、バシッと小気味よい音が響いた。 「二股掛けられて笑ってられるほど  バカじゃないわよッ」 「勘違いも甚(はな)だしいって、きっとおたく  みたいな女の事、言うんだろうね」 「何ですって?!」 「1~2回セッ*スすれば情が沸くとでも思ったか?  俺、どっちかってーと、女のユルいアソコに突っ込む  よりケツの方が好きなんだわ。どーしても俺と付き合い  たいってなら、ケツに挿れさせろよ。OK?」   きっぱり言い切った倫太朗の冷ややかな言葉に、   あつしと迫田は「きっつぅ」と小さく呟いた。   わっと泣き出した女生徒が踵を返して駆け出した。   それを待っていたかのように強い追い風が吹く。 「白」 「水玉」 「黒」   強い風は女生徒の短いスカートを翻す。 「きゃあっ」   傷ついた彼女の心にさらに追い討ちをかけるよう   スカートがふわりと舞い上がった。 「ざ~んねん、全員ハズレ~っ!」   見えた紫色の悩殺下着に3人で大爆笑。 「あれ、お前の趣味か?」   迫田に肩を小突かれた倫太朗は、 「2回目に寝た時、言ってやったんだ ”そんな  色気の素っ気もないグ*ゼのお子ちゃまパンツ  じゃ勃つもんも勃ちゃしねぇってさ。だからだろ」 「(それ)にしても、趣味わるすぎぃー」 「行っちまったぞ。追いかけなくていいのか?」 「もう関係ない」   あつしの言葉に倫太朗は肩を竦める。   未練は全くなさそうだ。 「あー、俺らも青春したいねェ」   その場を和ませるように迫田が伸びをした。 「修羅場はカンベンだけどな」   あつしが言うと、   倫太朗も迫田も「違いねェ」と口端を上げた。

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