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第22話

  チームでの病棟回診が終わった後の中休み。   俺は院内カフェの一隅のテーブルを囲んでいる   メンバー達の元へ向かった。   自分が迫田との事で追い詰められ、メンバー達に   八つ当たりし、チームの輪を乱してしまってから、   何の詫びも入れていないのが気がかりだった。 「あ、あのぉ……」   恐る恐る声をかけた俺にメンバー達の   キツい視線が突き刺さる。 「えっと……この前は、酷い事を言って、すまなかった  今、チームを外されるのは凄く困るんだ、だから……」   メンバー達はみなまで聞かず席から立ち上がった。   あぁ、やっぱりだめだった……と、肩の力が落ちる。   けど、メンバー達は俺の横を通り過ぎていく時、   まるで俺を勇気ずけるよう、1人1人が俺の肩を   叩いて出て行ったんだ。   そして、最後に残った、この前俺の胸ぐらを掴んだ   都村は ―― 「プライベートだろうが何だろうが、しんどい事があったら  気兼ねしないで俺達頼れよ。その為の友達だろ」   友だち…… 「近いうちにまた、皆んなで飲みに行こうぜ」   と、カフェから足早に出て行った。   いつの間にか出入り口にあつしと利沙が立っていて、   ニンマリ微笑みVサインを投げてよこした。   俺は嬉しくてまた泣きそうになり、グスンと   鼻をすすってから2人にVサインを返した。    ***  ***   ほんの少し勇気を出して、自分の固い殻を破って、   一歩前へ踏み出してみた。   素直になって、皆んなからの救いの手に身を委ねた。   自分が変われば、周りも変わってくれる。   あまりに物事が上手く進み過ぎで、   ちょっと怖いような気もするけど。   例年なら5月の始め位には発表される研修医の   配置換えがやっと今日、掲示板に貼り出された。   今回の配置換え対象になっているのは倫太朗達、   第65期の研修医だ。      スーパーローテートという新制度の元、   勤務していた診療科をひとつに定め、   徐々に”猫の手程度の下っ端”から   ”1人前の医者”へと認められていく ――。   倫太朗が決めたセクションは産婦人科。      産科医は年々減少の一途を辿っている。   その主な原因といわれているのは、   少子化問題に加え。   長時間の連続勤務や1人当たりの過重負担などの   過酷な業務だ。   24時間体制が必要な産婦人科では、当直明けの   診療が当たり前となっているところがあり。   また、日本産婦人科医会によると、   産科医のうち常勤医の4割を女性医師が占め、   20~30歳代が6割を超えており。   さらに、女性医師の約半数が妊娠中もしくは   小学生以下の子どもを抱えており、   当直免除やお産の担当から外れる事も多いため、   他の医師への負担を重くしている面もある。   もう一つの大きな原因として「訴訟リスク」がある   特に産科医は、医師1人当たりの提訴件数の割合が   多い為、それが精神的、経済的に負担となり、   産科医数の減少にも大きく影響していると   いわれている。   だから、研修医にも敬遠されがちな部署なのだが。   倫太朗がそういった事も踏まえ、   このセクションを選んだ動機はやはり、   年頭にERで経験した搬送患者の死が大きい。   もし、あの時専門医がいさえすれば、   母親の命だけは助けられたかも知れないと、   後から聞いてしまった。   様々な熱い思いが倫太朗を今のセクションへ   進ませた。   すると柊二は”倫が移るならオレも――”と   人事課へ異動願いを出したが、大吾から   「わがままも大概にしろっ!」と一喝され、   泣く泣く外科にとどまった、とさ……。

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