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第24話
正門を出て帰宅途中、3人の脇に横付けるよう
黒の国産車が止まった。
3人は訝しげな表情を浮かべて立ち止まる。
すると後部座席の窓が開いて中年の男が
顔を覗かせた。
「治」
呼びかけられた迫田は煩わしそうに眉を潜めた。
「乗りなさい」
「こいつらと帰るんで」
丁寧な中にも威圧感漂う言葉に負けず劣らず
迫田はぴしゃりと跳ね除ける。
「治」
先ほどより強い口調の男を冷ややかに一瞥した
迫田はふいっと顔を逸らせて歩き出した。
「困った奴だ」
呆れたようなため息と呟きは他の2人にまで
聞こえてきた。
2人は彼が迫田の父親であることを知っていた。
そして父子の仲が上手くいっていない事も
知っている。
「おい、治。待てよ」
迫田の後を追いかける倫太朗の背中と、
窓を閉めて走り去る車をあつしは何とも言えない
思いで見ていた。
*** *** ***
倫太朗とあつしが迫田という男子を知ったのは、
中学3年生で初めて同じクラスになった時だ。
クラス替えがあり、
教室内が新しい顔ぶれに浮き足立っている中で、
迫田はただ1人窓際の席に座り、
頬杖ついて窓の外を見ていた。
その姿がざわつく教室内で妙に浮いていたから
倫太朗とあつしは目が離せなかった。
席が近くで活動班も一緒という事もあって
何かと話しかける機会はあったが、
反応はないに等しかった。
クラスメートに対してこれはないだろうと
腹立たしく思ったが、
程なくして迫田はただ単に無愛想で無口、
人付き合いが苦手なタイプではないだろうかと
思い始めた。
迫田はクラスいち浮いた存在だった。
中学生にしては威圧感があり、
誰も近寄ろうとしない。
また倫太朗もあつし近づこうとしない。
話しかけるのも・かけられるのも煩わしいと
思っている様子がありありとしていた。
どこかの企業の社長の息子。
母親はテレビとかラジオに出てる結構有名な
育児評論家。
父親とも折り合いが悪い。
喧嘩っ早い。傷害事件を起こしたことがある。
根も葉もない事も混ざって噂だけが1人歩きする。
それを揶揄したクラスメートと教室内で
取っ組み合いの大喧嘩した事も迫田を孤立させる
原因となっていた。
あつしは至って温厚で人付き合いがよく、
人懐っこい。
愛想もよかったのであつしの周りにはいつも
人が集まっていた。
倫太朗とて、パートナーチェンジの
サイクルが異様に早く 学績が毎回”学年首位”
という事以上に悪目立ちしてはいるものの、
何となく迫田に興味を持ちながら彼に興味を
持ってもらえず、2人の間にはいつまでも距離が
あった。
それが縮むきっかけになったのは夏休み中、
プールでの出来事だった。
塾の友達、斎賀・薬師・花崗とで市営プールに
来た。
中3・受験生とはいえみんなストレスを抱え
持て余してるんだ。
ひとしきり、バカみたいにはしゃいで
閉館ギリギリまで粘って遊んだ。
着替えてる時に薬師が「さっきっからあいつ、
お前のことじぃーっと見てるぜ?」
言われた方向を見ると、目が合ったのが迫田
だった。
「お前の着替え、ジーっと見てんの。
あれ……ゲイじゃね?」
斎賀がクスクスと笑いながら小さな声で言う。
「うわっ ―― きっしょ!! どうする?
桐ちゃんって、男に好かれそうじゃん」
ふざけて花崗までもが笑う。
「止めろって」
同じようにふざける事は出来なかった。
「だよな。キモすぎるよな。男が男の裸見てとか」
倫太朗が気を悪くしたと思ったらしく、
機嫌を取るような口調で言ってくる。
「俺、絶対無理。ブスな女の方がマシ。気をつけろよ、
桐沢。襲われねーよーに」
斎賀の方はまだ調子に乗って追い打ちをかける
ようなことを言ってくる。
―― 気持ち悪い
―― 男が男の裸を見て……
頭の中がグルグルする。
自分に言われた訳じゃないのに。
それでも、あいつの視線は、俺だ。
俺が他の男を見る目と同じ。
そうだよ、俺も、あんな風に男を見てる。
薬師や花崗が ”気持ち悪い” というモノに、
俺は属する。
突然、背中に冷水を浴びせられたような
気分がしてきた。
でも、これが現実なんだ。
*********
斎賀達と別れて、自転車で家に戻ろうとしたら、
迫田が目の前に立ち、行き道を塞がれた。
「一人になるの待ってた」
いきなりそう言って、ニッと笑った。
なんだこいつ……。
学校の時とは随分と雰囲気違うやん。
「何だよ」
「俺と遊ばない?」
遊ぶ? 例えば何をして?
「自己紹介はいらんよな。クラス同じやし」
同じクラスなのに、ちゃんと話したのはこれが
初めてだ。
今日は、意外な事にナンパ目的で来ていたらしい。
”やっぱ海にでも行けば良かったかなぁ”って
思ってたら、倫太朗達が見えてラッキーだと
思ったという。
「もうとっくに帰ってたと思ってたからさ。で、
さっさと1人になんねーかなと思って後つけた」
肩をすくめて、眉も上げる。
(ホント、いつもとは雰囲気違いすぎっ)
ものすごく大人っぽく見える。
「遊ぶって……何すんの?」
男くさいモノを発散させて近づいてきた迫田に、
倫太朗の中の燻りが目を覚ます。
「経験あるよな?」顔を近づけてきて、
耳元で小さく言われた。
何の経験?
―― 顔を離して自分をジッと見るニヤニヤした
表情で意味は通じた。
「何で、俺に声かけたの?」
迫田の問いには答えずに、反対に問うてみた。
「いや……今日の桐って色っぽいなと思って。
中坊の癖にさ。一緒にいた3人がガキすぎて、
その対比が面白れぇな……って、見てた。
経験が無きゃ、そんなもん出ねぇよ」
色っぽい……そうか。
**さんも時々、そんなことを言ってた。
その内、男なんかうじゃうじゃ寄ってくるとも。
男に抱かれる男は仲間内じゃすぐにわかるん
だって。
その言葉にちょっと期待してた。
それが……現実になったのだ。
「どこですんの?」
学校の補習授業 ―― 塾の夏期講習と合宿 ――
ひたすら勉強漬けの毎日……
ヤりたい……とにかく溜まったものを出したかった
**さん以外の他の男は……どんな風に抱くん
だろう。
目の前の迫田を見て、素直にそう思った。
「俺んちでいいか? 親父もおふくろもいねーし、
家政婦のババアは夕方5時までのパートだから」
―― って事でこの日、初めて迫田の自宅へ行き、
初めて迫田とセッ*スした。
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