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第25話

  高校へ進んでも倫太朗のご乱行は相変わらず   だった。   修羅場も堂々たるもので、あつしも迫田も   目撃したのは数知れず。   来る者拒まず、去る者追わずをそのまま地で   いっているようなものだった。   初対面の相手にでも平然と   ”アソコがユルくてガパガパ” だの   ”お前のナニは顕微鏡じゃなきゃ見られない”   だとか好き放題のことを言うせいで、   良からぬ噂も流れているはずなのに倫太朗の周囲へ   人が途絶えないのは、倫太朗自身が持つ   パーソナリティーによるもので、醸し出す   人懐っこさと物怖じしない気質も多分に作用したの   だろう。 「それにしても、りん、お前そのうち刺されるぞ」   冗談めかして言ったあつしの言葉に、   倫太朗は薄っすら笑みを浮かべすらした。   猛夏が過ぎて秋の気配を感じる頃になると、   迫田は学校を休みがちになり、   あつしは将来を本格的に考え   中退する事を決意した。   放課後、倫太朗を屋上に呼び出し、   その事を真っ先に報告した。   あつしの実家は昭和初期から続く、   京の老舗料亭”華の家”   だが、あつしは和食の道へは進まず、   洋菓子製作・つまりパティシエになりたいと   カムアウトしていたため、担任・進路指導・   学年主任を巻き込んでちょっとした騒動に   なっていたのだ。 「さっき学年主任に話してきた」 「そっか」   ひと言呟いて倫太朗は押し黙った。   その視線は金網越しに遠くを見つめている。 「寂しいと思ってくれるか?」   あつしの言葉に倫太朗が振り返る。 「当たり前だ。お前は俺の大事な親友だからな」 「そっか……良かった」   倫太朗の口から出てきた『親友』という言葉に   鼻の奥がつんと痛み、あつしは不覚にも   泣きそうな気分になった。 「そういや治の奴は……」   そんな気分を誤魔化すようにあつしは   別の話題を振る。 「迫田がどうかしたか?」 「いや。あいつとはどういう経緯で仲良くなったんかな  と思ってさ」 「何を今さら」    くくっと倫太朗が笑う。 「何となくだよ」   「……ホントのこと言っても、俺の事、軽蔑したり  しねぇ?」 「今さらだな」 「……寝た」 「―― あ??」 「……中3の夏休み、市営プールの帰りにばったり  会ってさ ”遊ばねぇ?”って言われて」 「かるっ。それだけでかよ?」 「ただ性欲ぶち撒けるだけの付き合いならそれで  十分だろ。それに……」   倫太朗は言葉を切りニヤリ思い出し笑い。 「何だよ」 「……奴、それなりに場数踏んでたみたいで、  なかなかいい感じだったぞ」 「へーへー、さいざんすか ――そういや治のヤツ、  最近見ねェな」 「あぁ、ヤツも大変みたいだ。親父さんの事業、  上手くいってないらしい」 「そうなのか? 知らなかったな」   あつしは銜えた煙草に火を点けた。 「火ィ貸して」   倫太朗があつしのネクタイを引っ張って引き寄せ、   銜えている煙草の先に自分の銜えた煙草の先を   くっつけた。   あつしの煙草から火が伝わる。 「あいつは自分の事をベラベラ話すヤツじゃない  からな」 「でもお前には話すんだぁ……」   紫煙を吐きながら呟いたあつしの言葉は   倫太朗に届かなかった。 「何か言ったか?」 「いや。何でもねェよ」   こうして屋上で煙草を吸うのも最後だな、   とあつしはこの時だけ少々感傷的な気分に   浸っていた。

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