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第15話
涙を誰か拭ってくれる ―― 抱きしめてくれる。
「もう、泣かなくていいから……」
この声は……しゅう、じ?
だぁれも俺の事なんか、
ホントに愛しちゃくれないのに……
俺はただの厄介者で足手まといなだけなのに……
あなたは俺の傍に居てくれるの?
嬉しくなって、俺も柊二を強く抱きしめた。
でも、待てよ ――?
あの寡黙な男が急にこんな優しい言葉かけて
くれるハズはない。
俺は目を開けた。
「はよ~、寝坊助りんたろぉ~」
至近距離に柊二ではない男の顔があった!
この春、中3になった甥っ子の翔太。
「大丈夫か? 泣いてるぞ?」
「あ……」
俺は、もしや抱きついていないか?
僅か15才の少年に……
そして……抱きしめられてないか??
僅か15才の少年にっ!!
「もう大丈夫、この俺がついてる」
笑いながら俺の瞼にキスをして涙を吸い取った!!
な、何なんだ、この年にしてこのテクは……?!
おかげで俺の意識は完全に覚醒!
「ちょっっ! 何してんのっ??」
当然の事ながら(?)毛布の中に翔太も一緒!
しかも上半身裸だし!……俺は服を着ている。
良かった……
「昨夜、りんってば勉強の途中で先寝ちゃうんだもん。
で、ちょっとだけ寝かせといてやろうって仏心
出したら俺も眠くなってさ」
俺を見て、テヘッと笑う。
「……顔、近くない?」
「あー、気にしない気にしない、けどーりんの寝姿、
意外と可愛いすぎ。しかも泣いてるし、
顔真っ赤だよ」
俺は慌てて涙を拭いて、翔太へ背を向けた。
「……寝言でさ、しゅうじぃって言ってたけど、
それってもしかしてこの間……?」
背後から翔太が聞いてきた。
心臓が痛いくらい鼓動を速める。
「お、お前がこの家へ来る前に死んだ番犬。子供の頃
からずっと可愛がってたから、
夢にまで出てきちゃたのかなぁ、アハハハ ――」
咄嗟にわざとらしいでまかせをかました。
我が家の番犬・六三四(ムサシ)は、人間なら御年
63才の老犬だがまだちゃんと生きてる。
「ふぅぅぅん、ワンちゃんなんだぁ……」
明らかに嘘だとばれてる……当然か。
翔太がベッドから出る。
「シャワー浴びな、朝飯作ったから」
言いながら部屋を出て行った。
俺は着替えを持って、急いで浴室に向かい、
柊二の事を思うと自然に溢れ出る涙を
熱いシャワーで流した。
―― 本当に欲しい物は、どうしてこうも
容易く離れていってしまうのだろう……。
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