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第2話(蒼衣side)

紺の事がいつから好きだったかなんて、自分にもよく分からない。近くに居過ぎたから。 あー、でも出会った日の事はよく覚えてる。 小学校に上がる頃、両親が離婚した。 子供の目から見ても、仲の良い夫婦だったと思う。いつからか、父親は電話している事が多くなった。母のいないところで。 夜眠っているとき、2人が争う声で目が覚める事もあった。 しばらく平和な、平和にしようと務めているような、いつも通りの生活が続いたあと。 母が俺に向かい合い、両肩をしっかりと掴んで言った。 「パパはママより好きな人ができたんだって。ママもパパの事、大好きだから一緒にいたいんだけどそうすると多分パパは幸せじゃないから。ママは蒼衣と一緒にいたいんだけど蒼衣はどう?」 「ママと一緒にいたい。ママがいればいいよ。」 「俺がいるから元気出して。」 張り詰めていた糸が切れたように、母はぼろぼろと涙をこぼす。ごめんね、本当にごめんねと繰り返しながら、俺を抱きしめて泣いていた。いつもの明るい母とは違う、なんだか危うい姿に「俺が守らなきゃ」と思った。 後から母に聞いた話だけど、母は俺のこの言葉のおかげで本当に救われたと言っていた。 笑いながら、あんたがいなかったら壊れてたかも、とも。 それから2人で母の実家に引っ越してきた。 じーちゃんもばーちゃんも優しく迎えてくれた。 同じ並びの二軒先に母の親友が住んでいて、引っ越してきてすぐ母と一緒に親友の家に遊びに行った。 俺と同い年の息子がいるから友達になってねって紹介されたのが紺だった。 元々、あまり社交的なほうではない。黙って俯く俺に紺はいきなり俺の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。突然の事にびっくりして固まっている俺の顔を下から覗き込むようにして視線を合わせた。 「お前の髪、茶色くてすげーキレイなのな! 俺、紺。仲良くしようぜ!」 至近距離でにかっと笑った人懐っこい笑顔から目が離せなくなる。心臓が早鐘を打つ。胸が苦しい。 ほっぺたと耳が熱い。 「大丈夫か?顔、まっかっかだぞ。色白いから目立つの、な。」 今度はほっぺたをぎゅっと両手で挟まれる。 「だ、大丈夫。びっくりしただけだから。」 やっとの思いで絞り出した声はなんだか自分の声じゃないみたいだった。

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