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第5話(蒼衣side)
気づいてしまった。
自分の中の浅ましい気持ちに。
「応えてくれなくても気持ちを伝えるだけでいい」
「嫌われてももう会わなければいい」
所詮、きれい事だった。
想いを告げた後の紺の表情が頭から離れない。
戸惑いを隠せないように揺れた瞳。
言葉を発する事は無かったけれど紺の表情から、佇まいから、
「お前、何言ってんだよ」と聞こえた気がした。
取り繕うように、「人を好きになる気持ちを教えてくれてありがとう」だの「会わないようにするから」だのまくし立てて、走って逃げた。
涙で歪む視界もそのままに、ひたすら走った。
よかった、帰り仕度してきて。
そんな事を考えながら、じくじくと痛む胸を押さえて走って帰った。
家に着くとみんな出掛けているのか留守だった。コートも脱がずに自室のベッドに突っ伏した。
分かってた。
分かってたつもりなだけだったと思い知る。
期待、してたのかな、俺。伝えるだけで十分とか思いながら。
紺が笑ってありがとうって言ってくれるかもって?
何てずうずうしい。何て自分勝手な。
そう思うのに、涙が止まらない。
もう紺の側にいられない。
自分に笑いかけてくるあの笑顔も見られない。
つらい。
苦しい。
消えて無くなってしまいたい。
なんだか、世界中からお前なんかいらないって言われてるみたいな気分。
自分が誰かに愛される日なんか来るんだろうか。
好きになった人が、自分を好きになってくれるなんて奇跡みたいな事が起こる日が来るんだろうか。
体中の水分が全部涙として出ていってしまうんじゃないかと思うくらい、泣きに泣いた。
勝手に想いを告げて、応えて貰えないから泣きじゃくるなんて、何て自分勝手なんだろう。
でも今日は。
今日だけは許してやる。
思いっきり泣いていいよ。
そう自分に言い聞かせながら。
声を上げて泣いた。
涙は壊れた蛇口みたいに止めどなく溢れた。
紺に対する恋心も、自分に応えて欲しいという身勝手な思いも、全部流れていってしまえばいいのにと思いながら。
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