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第118話

「…あ…希?」 ベッドに腰掛けた俺の手首を斗真が掴んだ。 「ん?どうした?」 振り返り見た斗真は、捨てられた子犬のような顔をして俺を見上げていた。 「どこに行くんだ?」 「お前をどろどろにしたから、綺麗にしてやろうと思って。お湯とタオルを取りに行くとこだけど…どうした?どこか辛い?」 「…そっか…何でもない。自分でシャワー浴びに行くから…大丈夫だ。ありがとう。」 「斗真…思ってること全部言え。 何か…不安に思ってることあるんだろ? お前、捨てられたワンコみたいになってるぞ。」 斗真はしばらく何か言いたげに、もじもじとしていたが、観念したように切り出した。 「俺はお前と結ばれて本当に幸せだ。 でも何度も聞くけど…本当に俺を選んでいいのか? 何かの拍子に俺達のことがバレて、そのせいでお前の出世に響くことがあったらどうするんだ? 俺は役職に興味ないからいいけど、お前クラスの人間になったら、対外的にも支障が出るんじゃないのか? そうなる前に…今、身を引くことも考えてる。 俺は…お前の荷物になりたくない。」 「はっ、そんなことか。 それくらいで支障が出るような会社ならこっちからお断りだよ。 それとも何か?そんなくだらない理由で俺と別れるって言うんじゃないだろうな? …『身を引く』って何だよ…どういうことだ? お互いの想いを確かめ合って、家族の了解も得て、何が不安だ? 斗真…お前、ひょっとしてマリッジブルーか?」 「『そんなこと』じゃないって! 俺は…俺は…ただ、お前の足枷になりたくな」 言いかけた斗真の唇を噛み付くようにして塞いだ。 両手を髪の中に滑らせ頭を抱えて込んで、顔を固定し、あらゆる角度から唇を犯す。 斗真は、もがきながら拳で俺の背中を叩くけれど、そんなもの痛くも痒くもない。 今更何ほざいてんだ。 俺達、ずっと両片思いで、散々『好きだ』『愛してる』『離れるな、離さない』って言ってたじゃないか。 荷物?足枷? ふざけんな。 出世? それがなんぼのもんだよ。 俺にとってはそんなものどうでもいい。 斗真さえ、側にいてくれれば。それで。 お前しか、いらない

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