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第121話
「斗真、いいから。」
それでも斗真は黙って服をベッドに置くと
「待ってろ」
怒ったような顔をして、一言だけ言って出て行った。
何だよ。怒りたいのはおれのほうだ。
怒りを通り越して、この感情につける名前が見当たらない。
お前は一度ならず二度までも俺を傷付けたんだ。
俺を受け入れたくせに何言ってんだ。
あれだけ俺のことを『愛してる』と言ってたのは、俺の気持ちに流されただけだったのか?
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、斗真は、すぐに洗面器とタオルを抱えて入ってくると、俺の布団をめくり熱く濡れたタオルで身体を拭き始めた。
「やっ、斗真、いいから、やめろって」
抵抗する気力も体力もなく、顔から足の先までゴシゴシと拭われ、次に乾いたバスタオルでそっと包まれた。
下着からスウェットまで着せられ、気付いた時には横抱きにされてソファーに移動していた。
その間に斗真はシーツも布団カバーもさっさと交換して、俺はまた抱かれたままベッドに戻された。
斗真は無言で洗濯物を抱えて出て行った。
ピッピッという電子音が聞こえ、あぁこんな時でも洗濯までしてくれてるんだ と、ぼんやりしていると、斗真がベッドに腰掛けてきた。
こんなに好きなのに…あんなに愛し合ったのに
お互いの家族にも了解を得て、二人の生活が始まるはずだったのに
俺を捨てるつもりなら、最初から拾うなよ。
声にならない感情が渦巻いて、視界が滲んできた。
思わず布団を被って、斗真と真逆の方を向いて蹲る。
拒絶されても、例え嫌われても…愛してるんだ
離れたくない、離したくない
愛してる 愛してる 愛してる
報われない想いならいっそ消えてしまいたい
斗真のいない、斗真を感じることのできないこんな想いを持ち続けるなんて、もう、無理だ
昂ぶる想いが嗚咽となり、身体が震えていた。
止めどなく溢れる涙は、替えたばかりのシーツに吸い込まれていく。
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