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第122話

「希…」 ぎしっという音と、深くて低い声が背後から響き、同時に重たいものが背中からのし掛かり、布団の上からすっぽりと抱き込まれた。 「希…希っ」 あぁ、もう、止めてくれ。 そんな切ない声で俺の名前を呼ばないで。 身を引くとか、何でそういう風に考える? 訳分かんない。 100%俺のことが信じられないのか? 心が折れて引き裂かれ、粉々に散ってしまいそうだった。 止めようとしても、後から後から溢れ出る涙を(こらえ)きれず、俺は嗚咽しながら泣き続けた。 斗真はただ俺の名前を呼びながら、布団越しに俺を抱きしめていた。 やっとの思いで声を絞り出して 「斗真…もう、優しくしないで。抱きしめないでくれ。 …俺とのこと、後悔してるならもう自由にしてやる。 だから…だから、もう出て行ってくれ。」 追い縋る想いと裏腹に、拒絶の言葉がポロリと口から溢れた。 それでも斗真は離れずに俺を抱きしめる。 「希、ごめん、ごめん。 俺は、俺はただ、お前の邪魔になりたくないだけなんだ。 出世コースを蹴ってまで、俺のために日本に戻ってきたお前の…お前の未来の邪魔に…」 俺は斗真の腕を振りほどきながら、布団を蹴り飛ばした。 「誰が、いつ、どこで、邪魔だって言った!? 斗真じゃないとダメだって、何回言えばわかってもらえる?どうすればわかってもらえる? 他の誰でもない、斗真じゃないと意味がないんだっ!! 俺の未来を考えるなら、お前と二人で一緒にいることしかないんだ! 邪魔だなんて…1ミリも思ったことなんかないっ!! 俺の…俺の気持ちを…何だと思ってんだよっ…」 悔しくて悔しくて悲しくて感情が爆発して、痙攣を起こしたように身体がガクガクと震えている。 握った手の平に爪が食い込んでいるが不思議と痛さは感じなかった。

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