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第123話
「希…」
伸ばされた手から逃げるように後退りした。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
もう傷付くのは。
お前がいればそれでいいんだって。他に何もいらない。
どうして?なぜわかってくれない?
一度は手に入れたはずなのに。
お互いの想いを共有したはずなのに。
ガシャッ
どこかで何かが壊れた音が聞こえたような気がした。
その瞬間、不思議と…身体の震えも涙も消え失せた。
目の前の男は…誰だ?
なぜ俺の部屋にいる?
「あんた、誰?どうして俺の部屋にいるんだ?
返答次第では警察呼ぶよ?」
「希?何言ってんの?冗談はよせよ。」
「冗談?俺を呼び捨てって…
……あんた、俺とどういう関係?」
「希っ、いい加減にしろって。マジで怒るぞ。
えっ!?…まさか…まさか本当に…俺がわからないのか?」
「だーかーらー。あんた誰?」
「…俺は、影山斗真。お前の…恋人で…結婚の約束をしている。」
「はあっ!?恋人ぉ!?結婚っ!?
嘘だろ…えっ…」
「嘘じゃない。本当だ。」
真っ直ぐに俺を見る『影山斗真』と名乗った男は、辛そうに…それでいて愛おしげな表情をして、俺を抱きしめた。
「おいっ、ちょっと待てよっ。離せっ!離れろっ!」
いきなり抱き寄せられ、驚いた俺はぐいぐい両手を突っ張って逃れようとした。
しかし、それ以上の力で抱きすくめられ、身動きできなくなった。
「希っ、ごめん…俺のせいだ…なぁ、本当に俺がわからないのか?
俺のこと、微塵も覚えてないのか?」
「俺はお前なんか知らないっ!離せよ。離してくれっ!!」
無理矢理身体を捻り、その拘束から抜け出した時には息が上がっていた。
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