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第125話
しばらくの沈黙の間、俺は脳味噌をフルに回転させた。
「…で、推測するに、ショックを受けた俺は、お前に関する全ての記憶をシャットアウトしたってことか…そうすれば自分は傷付かなくても済む。
ふーん。俺ってそんなにメンタル弱かったのか…」
「恐らくそうだと思う…希、すまない。
俺が悪かったんだ。」
「…どちらにせよ、お前は俺と別れたかったんだろ?
じゃあ、俺の記憶がなくなったのなら、丁度いいじゃないか。
…このまま別れてしまえば。
そうすれば…
…『俺』はもう傷付くことはない。
お前も俺に対して罪悪感を感じることもない。」
「ちょっと待てよ!どうしてそうなるんだ!?
俺はお前を愛してるんだ!
やっと、やっと結ばれたのに、覚悟のなかった俺が悪かったんだ。
だから…そんなこと言わないでくれよ。」
「…でも、迷ってたんだろ?
俺の出世や将来って言ってるけど、本当は自分の将来を考えてたんじゃないのか?
所詮は男同士だ、上手くいくはずがないって。
会社や取引先にバレたら、今の生活が終わってしまうかも…って。
俺は…今の俺は、アンタに対して何の感情もないんだ。
だから、別れようが何しようが痛くも痒くもない。
悪いけど、帰ってくれないか?一人になりたいんだ。」
「希…」
何か言いたげなソイツを無視して寝室に戻るとドアを閉めた。
しばらくリビングにいる気配がしていたが、そのうち玄関のドアが閉まる音がして、出て行ったのがわかった。
頭も痛くない。
気分も悪くない。
ただ
この胸の痛みは何だろう?
大切なものをなくしてしまったような、この辛さと虚脱感は。
別れ際のアイツの絶望的な顔が忘れられない。
あの様子から見て、きっと俺達は本当に愛し合っていたんだろう。
でも、今は…そんな感情がない。
十年…と言ってたな。そんなに俺はあの男を愛して執着してたのか。
どうすればいい?
とりあえず、病院に行ってみよう。何か記憶が戻るヒントがあるかもしれない。
俺は急いで身支度を整え、携帯で評判の良いところを検索した。
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