127 / 1000

第127話

「今日はお祝いにステーキにしようって二人で決めてたから。」 その瞬間 『お祝いにステーキでも食いたいよなぁ』 『やっぱり豪華にステーキだよな』 『じゃあ、今夜はステーキにけってーい!!』 『おい、斗真!言い出しっぺが作れよ!俺、待ってるから。』 『ずりーなぁ。まぁ、いいか。』 そんな会話と、身を寄せて笑い合う俺達の姿が脳裏に浮かんだ。 えっ!?今の… まさか、俺達の…記憶!? 黙って俯く俺を心配したのか、両手の塞がった影山が俺に声を掛ける。 「希?具合でも悪いのか?大丈夫か?」 「…なんでもない。」 仲睦まじく幸せそうな俺達。 確かに、俺達は恋人だったんだ。 今…今は? 俺達がどんな付き合いだったのか知りたい。まがりなりにも、結婚まで決意した相手だ。 影山は俺のことをどう思ってるんだろう。 俺の記憶を無くした義務感で一緒にいようとしているのでは? ズキンと胸が痛んだ。 思わず胸を押さえた俺に気付いて 「希っ?どうしたっ!?」 「…なんでもないって。大丈夫だから。」 エーベーターが停止してドアが開いた。 そこから逃げるように急ぎ足で部屋へ向かう。 バタバタと俺を追いかけてくる足音が聞こえる。 一体、どうなってるんだ。 思い出したほうがいいのか、それとも悪いのか。 一瞬思い出したあの笑顔には嘘がなかった。 俺、俺はどうしたい? アイツは、アイツはどうしたい? 荒っぽく鍵を開けて部屋に飛び込んで、ベッドへ倒れ込んだ。 苦しい、苦しい、苦しい 辛い、辛い、辛い 痛い、痛い、痛い 助けて…俺を…助けて…

ともだちにシェアしよう!