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第130話
羨ましい…か。
こんな状態でも『羨ましい』なんて言えるか?
その気がないのに指輪だけ交換するなんて、斗真に失礼じゃないのだろうか。
指輪は、五月蝿い虫除けになっていいかもしれないが。
「おい、斗真。」
「おっ、斗真って呼んでくれるんだ。」
「ごめん、何となく…俺、呼び捨てだったのか?」
「あぁ。お互い名前で呼んでた。何だ?」
「俺、どうやら結婚指輪を頼んでたらしいんだけど…」
「知ってるよ。知り合いに頼んだって言ってたから。」
「こんな状態で受け取りに行くなんてどう思う?」
「俺はうれしいよ。これでお互いに束縛し合えると思ったら。
(仮)だと思っても、絶対に嬉しい。」
「実は今度の休みに行くって返事してしまったんだ。
…悪いけど一緒に行ってくれないか?」
「悪いどころか大歓迎だよ。空けとくから日時教えて。」
「ありがとう。じゃあ、後で。」
「うん、もうすぐできるから。テーブル片付けてくれる?」
「うん、わかった。」
何気ない会話の応酬が心地いい。
俺達はこんな風に時を重ね合おうとしていたのか。
他人なのに他人でない、不思議な関係。
斗真は今まで通りの行動らしく…俺は…時々ふっと甦りそうになる記憶の断片を拾い集めようとしていた。
もどかしい自分。
そうだ!アルバムとか見たら何か思い出すかも。
書棚から一冊のアルバムを取り出した。
そこには、幼い頃からの二人の写真が溢れていた。
「いつも一緒だったんだな…」
つい独り言が口をついて出てしまった。
「んー。そうだよ。お前がアメリカに行くまでは、何をするにも一緒だった。」
うわっ。いつの間に…
「これ…」
「あぁ。お前があっちに行ってしまった夏休みの写真だな。
うわー、懐かしい。希、かわいかったよなぁ…」
『かわいい』を無視してその写真に見入っている斗真。
庭に咲き誇る向日葵の花。
その黄色い映像と蝉の声、むせ返るような暑さ。
そして
泣きながら玄関に飛び込む俺…
もう少し、もう少しで…
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