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第134話

火照りかけた身体が治まった頃合いでリビングに戻ると、コーヒーのいい香りがしていた。 俺に気付くと、マグカップを二つテーブルに置いた。 「今度は零すなよ。」 「さっきのは不可抗力だから。」 なんだよ、コイツ。 今まで放っていたオーラが違う。 さっきまでのヘタレ系はどうしたんだ? まさか…本気で俺を落としにかかってる? そんな、色気ダダ漏れの目で見つめられたら… そんな空気を振り払うように 「仕事、どれだけ溜まってるんだろう… しばらく明後日から残業かも…」 「うおっ!そうだった…覚悟して行かなきゃ… そうだ。朝イチでボスに報告しないと… ボスからメールが来てた。 たった一文『朝イチに二人で来い』って。 どう説明したらいいのか…」 「俺のとこにも来てた。 正直に言うしかないよな。」 正直に…はぁっ…と大きなため息をついた斗真がソファーにそっくり返った。 俺はサイドテーブルの引き出しを開けると、中から小さな紙包みを取り出して斗真に投げた。 「斗真!ほらっ!」 「うわっ!何だよっ…これ何?」 「ナイスキャッチ。これがないと入れないから。」 はっ と思い立ったように斗真が俺を見つめた。 「…本当にいいのか?」 「…仕方ねーじゃん。 家も売っぱらって引っ越しの日も決まってんだろ? それに… さっきも言ったけど、お前がいたら記憶が戻って来そうな気がして…」 「ありがとう…希…」 音もなく近付いてきた斗真に抱きすくめられ、耳元でささやかれ、でもそれが全く嫌でない…嫌などころか嬉々として受け入れていることに、俺はかなり動揺していた。 心は戻りそうな気配はあるけど、それ以上に身体が斗真を求めている… 恋人だった『俺』と、今の俺は どこが違うんだろう… 肌を重ね合えば、何かが変わるんだろうか…

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