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第135話
「希…俺はお前の心が…心が欲しいんだ…
俺の元に…帰ってきてくれっ…頼むから…」
斗真は切なげな声で絞り出すように呟くと、俺を抱く腕に力を込めた。
俺は、その斗真の想いの丈を打つけられてもどうすることもできず、ただ黙って斗真に抱かれるままになっていた。
斗真の体温を感じながら、胸の奥から噴き上がる想いに戸惑う。
俺だって
俺だって思い出したい。
十年も思い続けた相手と結ばれて、きっと俺は、とてつもなく幸せだったはずだ。
だからこそ婚姻届を取りに行き、知り合いがいるとはいえ行き慣れない百貨店の外商を利用して、大枚をはたいて結婚指輪まで購入しようとしてたんだろう。
一体どうしたら元に戻るんだろう。
何をしたら『斗真を愛した俺』に帰れるんだろう。
つまらない意地を張ったせいか?
考えがガキ過ぎてパンクした俺がバカだったからか?
大切な恋人…伴侶の存在をかき消す程に、自分のコントロールを失った、俺の器の狭さ故か?
もう一度、もう一度、この暖かな胸に心から縋りたい。
こんなにも俺を求め、愛してくれるこの男と心から結ばれたい。
焦燥と絶望と、期待と希望が入り混じり、それに耐えきれずに俺は斗真を抱きしめた。
「俺も…俺も………戻りたい…
お前と…もう一度恋をしたい…」
拘束していた腕を離し、驚いたように俺の顔を見た斗真は
「希っ、希……あぁ…愛してる…
俺と…一から恋、始めませんか?」
頷く俺に、斗真は泣き笑いのような顔でキスをした。
その夜、俺達はそれぞれに想いを抱えたまま、一つしかないキングサイズのベッドに並んで、手を繋ぎ眠れぬまま朝を迎えた。
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