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第148話
あれから一カ月…
危惧していたような矢田からのアクションはなかった。
ざわついていた社内も、時間が経てば『普通のこと』と認識されるようになり、俺達を見て噂話をするような奴らもほとんどなくなった。
ボス達の根回しのお陰なのか、一番心配だった取引先でも「何だ、そうか、おめでとう」と一様にスムーズに受け止められ、業務に何ら差し障りもなかった。
俺達は、これまで以上に気合を入れてお互いに仕事に没頭して業績を伸ばしていたので、文句を言われる筋合いもなかった。
逆に生暖かい目で見守られてる と言った方が正しいのか。
強いて言えば、腐女子の萌え対象になってるらしく、そういう視線にぶつかることもあるが、もう慣れてしまった。
俺の記憶は…相変わらずで、ふとした拍子に断片的にフラッシュバックするものの、これといった進展はなく、斗真との関係もプラトニックなままだった。
食事の時間もできるだけ合わせて、酒を飲みながらたわいのない話をして。
身体を重ね合うこともなく、ただハグをしてお互いの温もりを感じ合って、いつの間にか毎晩日課のようになったおやすみのキスをして手を繋いで眠る。
時折、斗真の縋るような切ない視線を感じていたが、敢えて気付かぬフリをしていた。
そうしないと、最後まで斗真を求めてしまいそうなことを自覚していた。
前の俺は、散々斗真を抱いてお互いのことがわかっているのに。
そして今、斗真に恋し愛し始めているのに。
身体は斗真を欲しがっているのに。
100%の俺でないと、斗真が与えてくれる愛に申し訳ない気がして、最後の一線を踏み止まっていた。
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