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第163話
矢田の手が俺の肩を掴んだその時
バァーーーーーン
とけたたましい音とともに希が乗り込んできた。
矢田はびっくりしてフリーズしている。
希はそのまま素早く距離を詰め、俺に迫っていた矢田に、右ストレートを綺麗に決めて打ち倒すと
「斗真、大丈夫か?動ける?」
と俺の頬を撫で抱きしめた。
「希…何で?」
「ごめん、念のために…内緒でお前の携帯、通話中にしといた。
だから、会話も全部筒抜けだったんだ。コイツがやらかしたことも全て。
…一応録音してあるからな。」
希は俺のポケットから携帯を取り出すと『停止』ボタンを押した。
矢田は殴られた頬を押さえ呆然としている。
希はキッと矢田を睨み付けると
「斗真にしたことは絶対に許さない。
思う気持ちは勝手だが、それを押し付けたり無理矢理どうこうしようとしたり…それは相手を想う恋愛じゃない。
自己中のただの思い上がりだっ!
自分の気持ちだけを押し付けるな!
斗真は俺のものだ。
次手を出したら…この世から消してやる。」
矢田はその言葉にハッとしたような顔をして項垂れた。
「今回のことはボスに報告する。」
一言だけそう言って、希は俺の腕を肩に回し引き上げると、会議室を後にした。
「影山…すまない…」
掠れた小さな声がドアが閉まる瞬間に聞こえた。
痛む腹を押さえ黙ったまま、俺は希に引きずられるようにして医務室へ行った。
幸いなことに常勤の看護師が出勤していた。
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