165 / 1000

第165話

看護師さん…柔らかく落ち着いたトーンの声の持ち主は、八代さん という。 ショートカットの彼女は実際の年よりも10才は若く見えた。 「八代さん、取り急ぎボスには報告しました。 俺も相手を殴りましたから、ひょっとしたら今、医務室に駆け込んでるかも…」 「私からもボスに連絡しといたから。 あんな奴、ほっとけばいいのよ。 一発だけで止めて…我慢したのね。偉い、偉い。 私だったら蹴りも二、三発いれてるわよ、きっと。 人の伴侶に手を出すような奴はロクでもないんだから。」 あははっ と笑う彼女に救われた。 希も思いっ切り殴ってた… アイツもダメージ…心と身体と両方から受けてるから、今日は仕事にはならないはずだ。 後のことは希と八代さんがボスに頼んでくれていたけれど… あんな奴に不意打ちでキス…されて殴られて、かっこ悪い。 あそこまで卑怯だとは思わなかった。 希が来なければ、ヤられてたかもしれない。 ゾッとする。いつの間に通話にしてたんだろう。 好意を持たない、いや、恋愛感情のない奴にあんなことされて気持ち悪くて仕方がない。 油断した俺が馬鹿だった。 少しでも心を許した俺の落ち度だ。 「斗真…」 希が俺の手を握り頭を撫でてくれる。 それだけでささくれ立った心が癒されていく。 殴られたところは…少しずつ痛みも治まってきたようだ。 大袈裟に病院に来るほどでもなかったのかも。 「心配かけてごめん。」 「お前が謝る必要はない。 …守ってやれなくてすまなかった…」 「希は悪くない!ちゃんと助けに来てくれたじゃないか!」 「…でも…手を出された…あとでその唇、消毒してやるから。」 気付いてたのか!? 何となく居心地が悪くて…俯いた。

ともだちにシェアしよう!