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第167話
「俺は…退職くらいじゃ気が済まない。
斗真、被害届を出そう。それくらいしないとアイツは…」
「いや、待ってくれ。
こんなことになったけれど、アイツはずっと俺の同僚で…こんなになるまでアイツの気持ちに気付かなかった俺も悪かったのかも…
会社のことを考えたら、手放すのは惜しい人材だ。
やったことは許さないけど、前科者にはしたくない。
だから…被害届は…出さない。」
「おまえのせいじゃないだろ?
どうしてあんな奴を庇うんだ?
俺が止めなければレイプされてたんだぞ?
こんな傷まで負わされて…
俺が…俺がどんな思いで…」
希の、震える拳をそっと包み込み
「アイツにされたことより、希がどんなに俺のことを思ってくれてるのかがわかって、そっちの方がうれしいから。
殴った手、痛かっただろう?
俺を助けに来てくれて、本当にありがとう…」
「斗真…本当にそれでいいのか?」
「…あぁ。希が側にいてくれるなら、矢田のことはもう、どうでもいいかも。」
「…ちっ。甘いな…
わかった…
ボス、斗真の言う通りに…でも、俺は納得いかない。
アイツのしたことは絶対に…一生許せない。」
黙って聞いていたボスが口を開いた、
「影山、本当にそれでいいのか?」
「はい。あ、でも治療費はもらいますよ。」
「そんなもんじゃお前の受けた身体と心の傷は治らないよっ!」
「まあまあ、落ち着け、遠藤。
…矢田の処遇はこちらに任せてくれるかな?
君達に悪いようにはしない。
決まったら君達に知らせるから。
それでいいかい?」
俺は頷いたけれど、希は不貞腐れたように窓の方を見ていた。
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