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第168話
「身体も心配だし、落ち着くまで誰とも顔を合わさなくても済むだろう」とボスの配慮で、俺は表向きは『出張』という名で、実際は一週間の有休を取らされた。
溜まりに溜まっていた有休消化にはちょうど良かったのだが。
休んでばかりで今月の成績はガタ落ちだな。
まぁ、こんな月もあるし、仕方ないか。
希に家まで送ってもらい、ソファーに座った瞬間、頬が濡れているのに気が付いた。
「…斗真?」
希が俺の横に座りそっと頬を撫で、伝う涙を親指で拭った。
途端、堰が切れたようにボロボロと涙が溢れてきて、俺は希にしがみ付いて、声を上げて泣き崩れた。
自分が思っていたよりも、かなりのダメージがあったみたいだ。
子供のように泣きじゃくる俺を希はただ抱きしめて、あやすように背中を撫でていた。
「お前を傷付けるものから、必ず俺が守ってやるから。」
希は何度も何度も繰り返し耳元でささやいては、こめかみに、額に、髪の毛に…キスを落とし続けた。
しばらくして、やっと泣き止んだ俺は、ぽんぽんに腫らした目を擦りながら告げた。
「もう…大丈夫…希、ありがとう。」
「擦るな。待ってろ。タオル持ってきてやるから。」
頬にキスした希は、すぐに保冷剤を巻いたタオルを持ってきて目元に当ててくれた。
「昼過ぎてるな…斗真、何か食べれるか?」
「うん…空いてるような一杯のような…」
「じゃあ、お粥作ってやる。医者も特に食事制限のことは言ってなかったけど…優しいもののほうがいいだろう。
お前の弁当は俺が食べるよ。」
そう言ってキッチンに消えていった。
あ…希の仕事は?
気になるけれど、今は…側にいてほしい。
大きなため息をついてソファーに横になった。
「痛っ…うっ」
殴られたところが当たり、思わず出た呻き声に、キッチンから希が吹っ飛んできた。
「斗真っ!大丈夫かっ!?
あぁ…痛めたところに当たったのか…
ちょっと見せてみろ。」
素早くワイシャツのボタンを外し、アンダーシャツを捲り上げると、鳩尾からやや左にズレたところが、もう色が変わっていた。
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