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第172話

「希…今、今何て言った? 俺の聞き間違い…じゃないよな?」 「『愛してる』って言ったんだよ。 足りなければ何度でも言ってやるよ。 斗真、愛してる。愛してるよ。」 「え?えっ?だって…お前、記憶は?戻った? えっ?えっ?」 希は、驚きすぎて挙動不審になる俺の頭を何度も撫で、顎をふいっと掴んで上に向けると、真剣な顔をして言った。 「記憶は…ところどころ欠けてるよ。 戻った部分もある。 何かの拍子に一つずつ思い出してる。 思い出す度に お前と一緒にいるうちに 斗真…お前を愛おしく思う気持ちが溢れてきて…どうしてもお前を失いたくない と思うようになった。 大切にして…一生をお前と過ごしたいと。 以前の俺と今の俺とは、お前に対する想いが違うかもしれない。 それでも… この言葉しか浮かばないんだ。 『斗真、愛しています。俺と結婚して下さい。』 …斗真?斗真、どうした?痛むのか?」 椅子を降り、俺と同じ目線になった希があたふたしている。 突然のことで何が何だかわからない。 希に…『愛してる』って言われて、プロポーズされた。 記憶は完全じゃない。 それでも…俺のことを… 目を見開いたまま希を見つめ、次から次へと涙が流れてくるのを感じていた。 何度か瞬きすると、押さえていた感情が一気に溢れ出した。 うっ、うぐっ、うっ… 俺は目の前の愛おしい男に抱きついて泣きじゃくった。 記憶がなくてもいい。 昔のことを忘れててもいい。 『今』の俺を見てくれたら、それでいい。 痛む腹をぐいぐい押し付けて、抱き付く腕に力を込める。。 当たる場所は滅茶苦茶痛い。 でも、それ以上にうれしすぎて、感情のコントロールが効かない。 子供のように縋り付いて、わんわん泣く俺を希はずっと背中を摩りながら、抱きしめてくれていた。

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