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第174話
side :斗真
思い出した?
全部?
俺をずっと愛してくれていたことも?
『結婚しよう』って言ったことも?
全部?本当に?
そっと身体を離して、希の顔をじっと見つめる。
揺れる瞳は少し潤み、口元には笑みが浮かんでいた。
「希…希…お帰りなさい…」
やっとそれだけ口にすると、希に抱きついて声を殺して泣いた。
どれだけ泣いても涙は枯れることはないんだ。
俺の大切な男 が、本当に戻ってきた。
俺の腕の中に。
時が経つのも忘れて、二人で座り込み抱き合っていた。
希が俺の顎を持ち上げキスをしてきた。
柔らかな唇に埋め尽くされて、それだけで意識が飛びそうになる。
それ以上の行為を求めようとしたその時
「うっ、痛っ!!」
「斗真っ?どうした?見せてみろっ!」
慌てて俺のシャツを捲った希が
「…ヤバっ…色が広がってる…斗真、病院行くぞ!」
見ると、さっきの倍以上に広がる赤黒い色。
「あ、でも、今ぎゅうぎゅうに押し付けてたから…それに『嘔吐や下血があったら来るように』って先生言ってたし、しばらく様子見てから」
「バカ!何言ってんだ!行くぞ!」
引っ立てられるようにして病院へ逆戻りさせられた。
結果…入院。
少しだが、腸に傷が付いていたようだ。
緊急な命に関わる症状ではないので、保存的治療を行うとの説明があった。
「はあっ…入院か…大袈裟な。」
「何言ってんだ、バカっ!
お前に何かあったら…俺、俺…」
涙ぐむ希を見てると胸が一杯になった。
「ごめん。」
たった一言しか返せない。
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