183 / 1000
第183話
空気の冷えた室内…不釣り合いなバラの花束と、いつもの上品なフレグランスの残り香が、ボスの存在を主張していた。
「…希?」
手を伸ばして、希のスーツの裾を引っ張ってみた。
「あの…誤解するなよ?俺はボスに対して恋愛感情はさらっさらないからな?
上司として尊敬してるだけであって、その…」
「わかってる。
わかってけるけど…お前が他の男に目を向けることに対して嫉妬してる自分が嫌なだけだ。
…心の狭い男でごめん。
こんなんだから、お前を追い詰めてしまうのかもな。」
「希…」
希は椅子を引っ張ってきて座ると、俺の手を握り締めた。
「お前を失うことが怖くて怖くて堪らない。
やっと思い出して手に入れたと思ったのに、こんなことになるなんて。
命に別状がないからよかったけれど。
他の誰かに見られるのも嫌だ。
触らせるのも嫌だ。
俺の側から…消えたりしないでくれ…」
俺は希の頭をポンポンと叩いて
「バーカ。
こんな泣き虫置いて、どこへ行けばいいんだ?
お前が言ったこと、そっくりそのまま返してやるよ。
俺のせいで、俺を本当に愛してくれてたお前がいなくなった。
身体は存在するのに、心がなくなって…
それでも、何年かかっても待とうと思った。
最終的に俺を選ばなくてもいい とも思ってた。
でも、
希はもう一度俺に恋してくれて…戻ってきてくれた。
俺はもう、二度と迷わないし、お前の側を離れない。
あー、早く元気にならなくちゃ。
希…愛してるから…キスして…」
うーーーっ と身悶えした希が、噛みつくようなキスをしてきた。
それでも、俺の身体に体重をかけないように配慮しながら。
と そこへ、ノックの音が。
「失礼しまーす。検温でーす!」
慌てて離れた俺達だった。
ともだちにシェアしよう!