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第203話

おばけプリンを作り始めた希の手際の良さは見事だった。 俺はぼんやりとそれを眺めながら、今までのことを思い返していた。 希が転勤でやって来て『責任を取れ』と無理やり抱かれるようになり、自分の気持ちにも気付いて、そして希も俺と同じ思いだったことがわかって、心から結ばれて…お互いの親も会社関係も、容認してくれた。 なのに俺の覚悟が足りないせいで、希が記憶をなくしてしまい、俺を愛していたことすら忘れてしまった。 矢田には悪いが、あの事件で傷付きはしたけれども、結果的には希の記憶が戻ることができたから良しとして、今では二人の関係はもっと強固なものになった…と思っている。 希…俺はお前を心から愛しているよ。 お前が望むなら、この命すら惜しくはない。 ただ… 命がなくなれば、お前を抱きしめ抱いてもらうことはできなくなるから…やっぱり嫌だ。 できるならば、この世からいなくなる時には、お前と同じがいいな。 一人残してしまうと、泣き虫のお前は、目が溶けそうなくらいに泣くだろうから。 「…斗真、斗真?」 はっ 「あっ、ごめん。ぼんやりしてた。」 「できたよ。後は固まるの待つだけだから。 俺を見ててねって言ってたのに、何ぼんやりしてるんだよ。」 ぷうっと膨れっ面の希の腰を座ったまま抱き寄せ 「…ごめん…」 と謝ると、俺の頭を抱きしめて 「愛おしそうに指輪を触りながらぼんやりしてたから…恐らく今までのことでも思い出してたんだろう?」

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