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第244話
「…希…あの…俺」
「ん…(チュッ)…わかってるよ…(チュクッ)…」
何度か食むように啄ばみ、名残惜しそうに離れていく唇。
つーーっと銀の糸が繋がり細くなって…切れた。
あっ
思わず欲を纏った声が漏れる。
その声にうれしそうな顔をした希に、唇を人差し指でなぞられて、びくりと身体が跳ねてしまう。
「ごめん…無理させて…今日は名残惜しいけど…ここまで。
キスしてると、それ以上のこと、したくなる。
夫夫生活オッケー出たその日に入院なんて、シャレにならないからな。」
希がこれ以上ないくらいの優しい声音で俺を労う。
この男は、どれだけ俺を翻弄し、どれだけ甘やかせるのか。
自分もその欲を身体の奥に溜めているというのに。
「…そんな目で見るなよ…煽ると…取り返しのつかないことになるぞ。
俺、結婚式のこと、親父と兄貴にメールしてくる。」
俺の頭を わしわしと撫でて、希が離れていった。
『そんな目』って…
そんな物欲しそうな目で見てたのか…
はぁっとため息をついて頬に手をやった。
火照った頬は、ワインの酔いのせいか、それとも燻る欲望のせいか。
一口分残ったワインを飲み干し、気を付けながらグラスを洗い、テーブルを片付け終えた頃、希がリビングへ戻ってきた。
「あ、片付けありがとう。
一応、二人に送っといた。
来れなくてもお祝いは、たっぷりと もらわないとな。」
イタズラが成功した子供のように、希はにやりと笑った。
そのままベッドへ連れて行かれ、倒れるようにダイブした後、希は俺を背中から抱きしめてきた。
「斗真…愛してるよ」
「ん、希…俺も。…おやすみ。」
「おやすみ。」
すっぽりと抱かれた心地よさに身も心も委ねて、身体の奥に燻る欲を忘れるように目を閉じた。
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