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第246話
希が嬉々として持ってきた用紙には、既に俺以外の名前が記入されていた。
「うわぁ…緊張するぅ…」
一文字一文字思いを込めてしっかりと…
希が横で息を詰めて見つめていた。
「できた。」
元のように丁寧に畳んで封筒に入れ、希の頬にキスをすると
「支度するから待っててくれ。」
と言い残し、洗面所へ向かった。
希の運転で、やや緊張の面持ちで向かった役所は、人当たりの良い年配の女性が受付けてくれ、あっさりと承諾された。
「なぁ、希…何だか呆気ないな。もっと手間のかかるものだと思ってた。」
「うん、そうだな…でも、今日から俺達は紛れもない夫夫になったんだ。
よろしくな、奥さん。」
「うへぇっ…俺『奥さん』ってガラじゃないし…」
「だって、お前、さっき俺のこと『ダーリン』って呼んだじゃないか!
それに突っ込むのは俺…痛っ!殴るなよっ。」
「『突っ込む』言うなって!…恥ずかしいだろ…」
「ん…ごめん…」
ハンドルを持つ希の左手にそっと右手を重ねた。
真っ直ぐ前を見ながら、ふっと微笑んだ希は、自分の左の太腿に手を下ろすと、逆に俺の手を握り込んできた。
「この手はどんなことがあっても離さないから。
俺に付いて来いよ、斗真。」
「男前だなぁ、希。
では、不束者ですがよろしくお願い致します。」
「わかった。お願いされてやる。」
思わず二人共吹き出して、その拍子に危うくセンターラインを超えるところだった。
「「うわっ!!!」」
「…危なかった…ごめん、大丈夫か?斗真。
すまない。安全運転で行くから…」
「ふうっ…大丈夫だ。びっくりしたぁ…
ところで、何処に向かってるんだ?俺達朝ご飯まだだろ?お腹空いた。」
「海に行こうと思って。で、途中で朝昼兼用のブランチでもどう?」
「海?海でデートか…いいな。」
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