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第247話
スイッチを入れるとオーディオから聞こえてくるボサノバ。
軽快なリズムに耳を傾けながら、時折希を盗み見る。
精悍な横顔の口元が緩み、ハンドルを持つ指はリズムを刻んでいる。
「希、ボサノバ好きだったっけ?そう言えば、ラックにCD沢山並んでたよな。」
「俺さ、あっちでバンド組んでたんだ。
よくボランティアで行った先々で頼まれるようになってさ、ボサノバもジャズも弾けるようにピアノも一応勉強したんだ。」
「へえー。意外。」
「学生の頃だし、もう忘れちゃったよ。
今はこうやって大事な人と一緒に聞いてる方がいい。」
へへっと照れ臭そうな希が心底うれしそうに笑う。
「俺もお前と聞いてる方がいい。」
デレた空気のまま、車は小洒落たレストランへ滑り込んだ。
「ここ、バイキングなんだけどお洒落で美味しくって評判いいらしいんだ。」
先にドアを開けて希が入り俺も後に続く。
美味そうな匂いが充満した入り口は、何組か順番待ちの行列ができていて、最後尾に並ぼうとした俺を制し、希は店員に何か言っている。
予約?
「ご予約の遠藤様、こちらへどうぞ。」
希がドヤ顔で俺を見つめると「付いて来いよ」とでも言いたげに顎で店内を指した。
何だよ…こんな店、予約してたのか?
俺が断る前提なんかなしってわけか。
どこまでも俺様希様ってことかよ。
まぁ、いいか。
希の後を付いて席に案内された。
窓際の海が見える一等席。
「おい…こんな席よくリザーブできたな。」
小声で聞くと
「『パートナーとの特別な日だから』って言ったら一発オッケーだったよ。」
げほっ
むせた。
思わず希に突っかかった。
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