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第263話
レジに並んで、いつもよりも安く買い物できた分、メインの肉とか魚に回せるな…と考えながら会計を済ませた。
袋に詰め込んで、ちらりと横を見ると、希がうれしそうに焼き芋の袋を抱えていて、何だか俺までうれしくなってきた。
俺の家で食べたものまで覚えてくれていたなんて。
車に乗り込んで、希と半分こした焼き芋をはふはふ言いながら食べる。
「熱っ!美味いなぁ…でも…」
「ん?」
「やっぱり…お前ん家のおやつが忘れられないなぁ…」
!!!
「じゃあさ、今度帰省する時は…おやつに作ってもらおうな。」
「えへへっ。そうしてもらおう!」
確かあの頃は…希ん家のお母さんは仕事が忙しくなって、あんまり構ってもらってなかったようだった。
お袋は専業主婦だったから、俺達は冬場のおやつは定番で焼き芋だったんだよな。
「帰りにスーパーに寄って肉とか買おうぜ。
いつも行くとこ、確か特売だったはずだから。」
「斗真…お前すっかり主夫になってんな…」
「だって俺は…嫁だから。
できるだけ出費は押さえて老後資金貯めとかなきゃ。」
「こりゃ、頼もしい嫁だなぁ」
あははっ と笑う希に、むうっと膨れっ面で軽く睨むと、頬をむにむにと引っ張られた。
ふっと影が差した。
と思った途端、唇に柔らかなものが触れて、ちゅっと音を立てて離れていった。
「のっ、希っ!こ、っここ、駐車場っ!」
「いいじゃん。キスしたくなったんだから。
さ、帰るぞ。」
いけしゃあしゃあと言ってのける希は軽くアクセルを吹かして知らん顔。
誰か見てたらどうするんだよ。
はあっとため息をついて前を向いた。
相変わらずボサノバの緩やかなリズムが流れている。
俺様希様には逆らえない…
何となく悟ってしまった俺だった…
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