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第267話
「お前を捨てるわけなんかないだろうっ!?
斗真…お前は、俺の全てだから…
俺を…捨てないで…」
俺のシャツの胸元を握り締める手が震えている。
急にどうしたんだ?
情緒不安定も甚だしい。
何があった?
「希、こっち向いて。」
俺の胸に縋り付く希の顎を持ち上げて、覗き込んだ。
潤んだ瞳が揺れている。
「どうしたら安心する?
何を言えば納得する?
俺はお前のものなのに。」
黙って俺を見ていた希の目から、ポロリと涙が溢れ、頬を一筋伝って落ちた。
「…お前のとこで過ごしたあの頃を思い出したら、アメリカに行った後、突然姿を消したお袋を思い出して…普通の生活してても、呆気なくそれが崩れてしまうことがあるんだ…
『サヨナラ』の一言もなく…
そう思ったら…
今の俺達の生活も、ある日突然解消されて、お前がいなくなってしまう可能性だってあるんだ…
俺は…そんなの耐えられない。
斗真なしではもう生きていけない。
お前は俺の生きる術なんだ。
斗真…俺を…俺を捨てないで…」
愛おしくて、ぎゅうっと震える肩を抱きしめた。
トラウマ?
お母さんに捨てられた事実は、希の心に深い傷を負わせてるんだ。
どうしたら癒してあげることができるんだろう。
「希…俺はどこにも行かない。
お前を捨てたりしない。
お前が嫌がってもどこまでもついて行くよ。
ほら、この指輪は俺達二人を繋いでる。
これは俺達が心から結ばれてる目に見える証だ。
婚姻届も出した。誰が何と言おうと、俺達は法律的にも立派な夫夫だ。
結婚式も控えてる。
お前は今…俺にどうしてほしい?」
ふるふると震えたままの希は、小さな声でささやいた。
「…いっぱい…キスして…」
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