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第272話
その夜…
希が風呂に入っている間に、お袋に電話を掛けた。
「あら、斗真!準備は進んでるの?
エステをプレゼントされたんですって?
嫁の嗜みですからね、しっかり磨いてもらいなさい!
いいわねぇ。私が利用したいわ!お二人によくお礼言っとくのよ!
そうそう、希君、元気?」
「あぁ、大丈夫。わかったよ。
希も元気だよ。
実は、お袋に頼みたいことがあって。」
「アンタが頼み事なんて珍しい。
で?何?」
「希のお母さんのことなんだけど…連絡先なんて知らないよな?」
「あらー、そんなこと?知ってるわよ!
年賀状のやり取りだけは してるから。
再婚されて、お子さんもいて、新しい家族と暮らしてるそうよ。
…連絡取りたいの?」
「うん。どうしても聞きたいことがあって…
あ、希は関係なくて、俺が勝手にそう思ってるだけで…アイツは知らないんだよ。」
「ふぅーん…希君とこはちょっと複雑だからねぇ…斗真、アンタ直接話してみたらどう?」
「えっ、いいの?希のお母さん、ビックリしないかな…」
「そうねぇ…じゃあ、私が先に連絡してみるわ。
一応親戚内になるわけだし。
でも、希君に黙ってなんて大丈夫なの?」
「…確認したいことがあるんだ。
それが解決しないと、希はずっとその思いに囚われたまま前に進めない。
いつまでも『また捨てられる』っていうトラウマが消えないんだ。」
「…そう、わかった。何とかする。
斗真、アンタがしっかりしなさいよ!
また連絡するから。」
マジな声で電話が切れた。
相変わらず聡い人だ。
俺の短い言葉で、きっと全てを悟ったのだろう。
段取りはお袋に任せて、俺は希のことを第一に考えることにした。
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