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第285話
握った拳に、ぐっと力を込めた。
「あの…直接お会いしてお聞きしたいことがあるんです。
少しでもいいので、お時間いただけませんか?」
「…希のことね?…わかりました。
いつにする?」
「できれば早く…」
「じゃあ、今日の夕方はどう?確か隣町よね?
16時に◯◯駅前の喫茶店…『Riki cafe 』っていう名前の喫茶店があるから、そこで待ってます。」
「『リキ カフェ』ですね?
わかりました。ありがとうございます。
では、後程…」
電話を切った。
時間にしてほんの数分なのに、ものすごい緊張感。
携帯を持つ手はじっとりと湿り、指が硬直している。
マジかよ。
16時か…希が帰ってきたら入れ替わりに出るか。
お袋にもアリバイ工作を…
「あ、お袋?ありがとう。今から会うことになった。
希には『お袋の買い物を頼まれた』って家を出るから、万が一連絡があったら上手く話し合わせておいてくれ。
うん、うん、そう。頼む。」
よし。気合いを入れて…
「ただいまー!」
希が帰ってきた。
「お帰り!ごめんな、俺が行けばよかったのに。」
「いいよ。昼もガッツリ食べたから、ちょうど散歩がてらでよかったんだ。」
「俺さ、お袋の用事で買い物頼まれてさ、ちょっと出掛けてくるよ。すぐ帰る。」
「そうなんだ。わかった。
じゃあ、ぼちぼちご飯の用意しておくね。」
「あぁ。ごめんな、任せて。
帰ったら手伝うよ。」
「うん、いいよ。斗真も散歩しておいで。」
「そうだな。美味い生姜焼き食べたいからそうするか。
少し回り道してくるよ。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
希、ごめん。嘘ついて。
胸がチクチク痛む。
さり気なさを装って家を出た。
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