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第287話
ふっと微笑んだ彼女は、少し悲しげに見えた。
「認めて下さった…と受け取っていいですか?」
「ええ。希を幸せにしてやって下さい。
よろしくお願い致します。」
そう言って頭を下げられた。
「ありがとうございます。
必ず、必ず幸せにします。」
「…よかった。ありがとう。」
「どうしても聞きたかったことがあるんです。
それを解決しないと、希は“あの日”からずっと立ち止まったまま歩いていけない…
あなたが家を出てから、希は『愛していても大切な人からいつか捨てられる』というトラウマを抱えて生きています。
俺に対しても…その不安が消えないらしくて。
いろんな事情があったことはわかります。
でも、なぜ…」
そこまで言うと、胸が一杯になり、言葉が続かなくなった。
必死で堪えるが、肩が震え涙で視界が霞んでくる。
しばらくの沈黙の後
「あの時は…逃げ出すことしか頭になかった。
あの土地も住む人も、みんな大嫌いになって…
『ノイローゼ』と一言で片付けられ、仕事一辺倒の主人には理解してもらえず、もちろん子供達にわかるはずもない。
私のことを誰もわかってくれないなら日本に帰ろう
そんな安直な考えだったの。
自分のことしか頭になかったのね。
帰国してしばらくすると、やっと冷静になれた。
置いてきぼりにした子供達のことが心配で、何度も電話を掛けたし、手紙も送った。
けれど、電話も繋いでもらえない。手紙は受取拒否で返ってくる。
連絡する手段がなくなったの。
離婚する時にも親権を渡してくれるように弁護士を立てて交渉したわ。
でも、私には分が悪かった。
泣く泣く諦めて…その間に新しいご縁があって再婚したの。」
ため息を一つついて、コーヒーを飲み込む音が響いた。
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